- ①男性に比べて症状が分かりづらい性病がある
- ②男女ともに不妊の原因になる場合がある
- ③母子感染を起こす性病がある
- ④定期的な検査が大切
女性に多い性病や、女性が感染すると症状が出にくく感染に気がつきにくい性病、不妊の原因になってしまう性病をご紹介します。また、性病の中には母子感染を起こすものもあるので、妊娠前や妊娠時にはとくに注意が必要です。
女性が気をつけるべき性病
とくに女性が気をつけるべき性病をご紹介します。男性と比べて女性のほうが『かかりやすい』『症状がないため感染に気がつきにくい』『感染者が増えている』3つの特性ごとにまとめています。
◎女性がかかりやすい性病
腟トリコモナスという原虫によって感染します。原虫は腟に炎症をおこし、黄緑色のオリモノが出たり、かゆみを引き起こします。
無症状のまま原虫が子宮頸部に長期間とどまり、感染に気づかないままパートナーにうつしてしまうこともあります。また、性交経験のない女性や幼児にも感染者がみられることがあります。
体内に常在しているカンジダ・アルビカンスという種類の真菌が原因でおきる腟の感染症です。薬や病気で免疫が下がったり、ホルモンバランスが乱れた時に発症しやすいです。
性器に水疱やただれ、発熱やリンパ節の腫れなどが起きますが、無症状の人も多いです。一度治ったあとも繰り返し症状がでる(再燃)ことが多い病気です。HIV陽性者が性器ヘルペスに感染した場合、より症状が重くなり、何度も再燃します。
HPVは性交渉経験のある女性の8割が感染するといわれる、感染しやすいウイルスです。感染しやすいウイルスですが、ほとんどの方は自己免疫力で自然と排除してしまっています。
HPVには100種類以上の遺伝子型があり、16型や18型などの高リスク型のHPVに女性が感染した場合、症状が出ないため感染したことに気が付かず長期間感染した状態が続くことで子宮頸がんの発症リスクが高まります。
6型または11型のHPVは尖圭コンジローマを引き起こすことが知られています。尖圭コンジローマを発症すると陰部や腟、尿道、肛門などにイボができます。普通イボは自覚症状を伴いませんが、痛みやかゆみが出ることもあります。
子宮頸がんはじめとしたHPV由来のがんや尖圭コンジローマはHPVワクチン(4価または9価)を感染前に接種することで予防できます。
◎男性よりも症状が出にくい性病
子宮頸管炎を引き起こす細菌性の感染症で、近年、20代の女性感染者が多く報告されています。
男性の場合は排尿時の違和感などで感染に気づくことがありますが、女性は感染しても症状がないことも多いです。感染したことに気がつかないで放置していると、骨盤内炎症性疾患(子宮、卵管、卵巣、腹膜の感染症)を引き起こすことがあります。
感染した女性の10~20%は無症状です。感染に気づかず他の人にうつしてしまうことが多い感染症のひとつです。
基本的には最初に感染した部位(腟、尿道、肛門など)に症状が出ますが、まれに淋菌が血液に入り、血流に乗って皮膚や関節に広がることがあります。クラミジアと同様に骨盤内炎症性疾患を発症する可能性がありますが、クラミジアよりも淋菌による症状のほうが重症度が高い傾向があります。
◎近年、女性患者が増えている性病
梅毒トレポネーマという細菌が原因で起きる感染症です。
梅毒の症状は、症状のない時期を挟んで三段階で現れ、段階によって症状が違います。各段階が進むにつれ重症化していきます。
【第一期】:感染後約3週間経過後に性器などにしこりやできものが出ますが痛みなどはないです。数週間で自然に消えます。
【第二期】:感染から約3ヶ月経過すると全身や手のひらや足の裏などに赤い発疹が出たり、外陰部や肛門に腫瘤ができたり脱毛が見られたりします。その他、発熱、体重減少、倦怠感などが現れます。数週間~数カ月で症状は自然に消えます。
【潜伏期】:症状はないですが、体内では病気が進行しています。
【第三期】:感染から数年〜数十年後に心臓や血管、神経に異常がおきます。
2011年頃から感染者が急増しています。感染者数は男性のほうが多いですが、男性は年代差があまりないのに対して、女性は20代前半の感染者が目立って多いです。
性病を放置してしまうと不妊の原因に⁉
不妊の原因のひとつに『性病による骨盤内炎症性疾患による卵管の瘢痕や癒着』があります。卵巣から排卵された卵子は、卵管膨大部で精子と受精し、受精卵となります。卵管が癒着し、狭窄または閉塞することで精子が卵管に侵入できず、卵子と出会えなくなります。なんとか受精したあと、子宮内に移動する受精卵が子宮に戻れず、卵管内や腹膜に着床する異所性妊娠(子宮外妊娠)を起こす原因となります。
骨盤内炎症性疾患が起こりやすい性病は、クラミジア・淋病・トリコモナスなどです。
また、女性がヒトパピローマウイルス(HPV)感染症に感染した場合、直接不妊の原因とはなりませんが、HPVによる子宮頸がん、または前がん状態により子宮頸部の一部切除を行った場合、子宮内に精子が侵入しにくくなったり、頸管粘液が減少して精子の侵入を助けられず、妊娠しづらくなることが考えられます。
性病が不妊の一因になるのは、女性だけではありません。男性のHPV感染で精子の運動率が低下することが分かっており、クラミジア感染では無精子症などの不妊の原因になると考えられます。
感染対策も治療も、パートナーと一緒に行うことがとても大事です。
妊娠時に注意してほしい母子感染の危険について
性病の中には、母親が感染していることで胎児や新生児に病気を感染させ、ときには致命的な症状を引き起こすものもあります。妊婦健診で感染の有無を調べる病気もありますが、各自で気をつける必要がある疾患もあります。すこしでも不安がある場合は検査をして調べましょう。
◎厚労省に検査が推薦されている感染症
感染症名 | 主な症状 |
梅毒 | 母親から胎児へ、胎盤を通して感染します。重篤な場合、生まれる前にお腹の中でなくなってしまったり(死産)、予定より早く生まれたり(早産)、生まれてまもなく亡くなったりします。生存した場合もいくつかの先天異常を持って生まれたり、成長過程でさまざまな症状が現れます。 |
HIV | 母親から胎盤や産道、母乳を介して感染します。 |
B型肝炎 | 感染している母親から生まれた子は、高確率でHBVキャリア化し、 将来的に肝硬変、肝がんを発症する可能性が高くなります。 |
C型肝炎 | B型肝炎と比べると母子感染の確率は少なく、感染しても生後3年で30%は自然治癒します。治癒せずHCVキャリアとなった場合、長期間肝臓にウイルスを保有することで、将来肝炎や肝硬変、肝がんのリスクがあがります。 |
クラミジア | 新生児結膜炎 肺炎を引き起こします。 |
成人T細胞白血病(HTLV‐1) | HTLV-1ウイルスのキャリアである母親からの母乳や胎盤経由を経由して感染します。発症するまで40年ほど無症状で、大人になってから発症するため成人T細胞白血病と呼ばれます。発症率は5-10%と低いです。性交により感染し、HTLV-1ウイルスのキャリアは国内に100万人いるといわれています。 |
風疹 | 妊娠初期に妊婦が感染すると、胎児にも感染し、流産、死産、先天性風疹症候群(複数の重い先天異常)などの原因となります。 |
B群溶血性レンサ球菌 | 腸や腟に常在する細菌ですが、妊婦が感染していると、出産時に新生児に感染し、新生児GBS感染症(敗血症、髄膜炎、肺炎、呼吸不全など)を引き起こします。 |
◎推奨されている検査以外で母子感染する感染症
感染症名 | 主な症状 |
HPV | 産道で感染し、生まれた新生児の呼吸器にたくさんのイボができることがあります(再発性呼吸器乳頭腫症)。喉頭にできることが多く、声がかすれたり、呼吸を妨げたりする際には外科手術でしか治せませんが、何度も再発します。 |
淋菌 | 新生児は産道通過時に感染し、淋菌性結膜炎を発症、腫れや膿が大量に出て、失明に至ることもあります。 |
単純ヘルペスウイルス(HSV) | 胎盤を経由して胎児に感染する確率はごく稀で、出産時に新生児に感染し、新生児ヘルペスを引き起こす方が問題となります。 発熱、皮疹、黄疸、呼吸障害など症状がある全身型、けいれん発作などが現れる中枢神経型があります。全身型では無治療の場合致死率80%と高く、治療した場合でも30%は亡くなり、生存した場合も中枢神経型では水頭症や脳内石灰化などの後遺症が残ります。 |
トキソプラズマ | ネコが持っている原虫です。妊娠中に母親が初めて感染した場合、胎盤を通して胎児に感染する可能性が30%、そのうち20%に胎内死亡、流産、胎児の発育不良、視力障害、水頭症、小頭症、肝脾腫などが現れる(先天性トキソプラズマ症状)ことがあります。 |
サイトメガロウイルス | 母親が妊娠中に初めて感染した場合、30-50%の確率で胎盤を通して胎児に感染します。そのうち10-30%に流産、死産、体内発達異常、難聴、精神運動発達遅滞、てんかん、視力障害、自閉症などが現れます。 |
水痘・帯状疱疹ウイルス | 妊婦が感染すると、胎盤を通して胎児に感染し、先天性水痘症候群(四肢の低形成、瘢痕、小眼球症、水頭症など)を発症することがあります。出産直前、直後に母親が水痘を発症した際は新生児にも感染し、発症した場合重症となることがあります。 |
ヒトパルボウイルスB19 | 伝染性赤斑の原因ウイルスです。りんごのように頬が赤くなることで通称りんご病と呼ばれます。妊娠中に母親から胎児に感染することもあり、その場合は、まれに流産、死産、胎児水腫を引き起こします。 |
リステリア | リステリア菌に感染した母親から胎盤を通して胎児に感染しますが、出産前の流産、早産、死産や、出産後の髄膜炎、敗血症などを引き起こし、致死率はとても高いです。 |
このほかにも、母子感染する感染症はあります。
また、病院によって行っている検査も異なります。
妊娠時は母体と胎児の健康最優先で、きちんと妊婦健診を受け、気になることは産科医にしっかり相談しましょう。
性病による不妊や母子感染を予防するために
女性は自分が病気にかかる以外にも、将来的に妊娠しづらくなったり、赤ちゃんに病気のリスクを負わせる可能性があります。
未来の自分が後悔しないためにも、安全なセックスを心がけましょう。
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①パートナーを限定しましょう
不特定多数との性交渉は性病感染のリスクを増加させます。パートナーを限定し、コミュニケーションが円滑にとれることが、感染予防や治療に役に立ちます。
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②コンドームを正しく着用しましょう
妊娠を考えていない場合はコンドームを正しく使用しましょう。性病の中には性器だけではなく、口内に感染するものもあります。オーラルセックスや性器を触る際もコンドームを使用することで感染のリスクを下げることができます。
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③剃刀、歯ブラシ、タオル等の直接肌に触れる物の共用は避けましょう
トリコモナス原虫は、浴槽やタオルなどの共用で感染する可能性があります。HIVやB型肝炎などのウイルスは血液が感染源です。かみそりなど血液がつく可能性が高いものや、タオルなど体液がつきやすいものの共用は避けましょう。
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④定期的に検査を受けましょう
日頃から自分のからだの変化に気づこうとする習慣が、性病予防にとってもたいせつなことです。セックスをする機会があるなら定期的に検査を受けましょう。
パートナーが変わったとき、自分やパートナーになにかいつもと違う症状が現れたとき、妊娠に向けての性生活にシフトするときなども、検査を受けることで安心して次のステップに進むことができます。
検査も治療も、パートナーと一緒に受けることで、知らずにお互いに病気をうつすリスクを減らすことができます。
(参考)東京都福祉保健局 東京都性感染症ナビhttps://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/seikansensho/knowledge/index.html
さらに妊娠時に感染していると母親から赤ちゃんに感染してしまう場合もあるため定期的な検査が必要です