GME医学検査研究所

【ピロリ菌】とは?特徴とリスクを解説

ピロリ菌という名前を聞いたことはあるでしょうか。

ピロリ菌は胃の中で生息する菌の一種で、正式名称はヘリコバクター・ピロリといいます。小さな細菌なのですが、感染すると胃潰瘍・十二指腸潰瘍を発症してしまう他、悪化すると胃がんリスクを高めるとも言われています。
本記事では、ピロリ菌の特徴やもたらすリスク、ピロリ菌をチェックする方法などを徹底解説します。おかしいなと思ったら早めにチェックして、治療を行いましょう。


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ピロリ菌の特徴

まずはピロリ菌にどのような特徴があるのかを知っておきましょう。

■名前はピロリ菌の特徴的な動きが由来

ピロリ菌は通称で、正式にはヘリコバクター・ピロリという名前。
ヘリコは旋回の意味があり、ヘリコプターのヘリコと同じ意味です。 ヘリコプターがローターを旋回させて動くように、ピロリ菌はしっぽのようなべん毛を旋回させて動いていることからこの名前がつきました。
またバクターは細菌という意味のバクテリア、ピロリは幽門(胃の出口)を指すピロルスに由来します。


■ピロリ菌は胃粘膜に生息している

ピロリ菌は酸素に触れると死滅してしまう細菌なので、胃粘膜に生息します。
グラム染色によって赤に染まるグラム陰性桿菌の一種で、乾燥に弱いのも特徴です。

胃粘膜はタンパク質を溶かして消化を助ける強い胃酸があるため、細菌はいないと考えられていました。胃酸は金属を溶かしてしまうほど強力なので、普通は細菌が生息できる環境ではありません。
ピロリ菌が胃酸の中で生息できる秘密は、ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素です。ウレアーゼは胃の中にある尿酸を分解し、アンモニアと二酸化炭素を作ります。
そしてこのアンモニアがピロリ菌を胃酸から守るバリアになるため、ピロリ菌は胃酸の中で生息できるのです。ピロリ菌に一度感染すると、除菌をしない限り生息し続けます。


■金メダル級のスピードで移動する

ピロリ菌の大きさは0.5×2.5~4.0μmで、本体は右巻きにゆるくねじれているのが特徴です。体の一方にしっぽのようなべん毛が数本ついていて、このべん毛を旋回させることで移動します。
べん毛を旋回させる速さは1秒間に100回転とかなり早く、たった1秒で自分の体長の10倍もの距離を移動することが分かっています。間に置き換えると100mを5.5秒で泳ぐスピードで、まさに金メダル級のスピードでの移動が可能です。
べん毛を旋回させる速さは1秒間に100回転とかなり早く、たった1秒で自分の体長の10倍もの距離を移動することが分かっています。間に置き換えると100mを5.5秒で泳ぐスピードで、まさに金メダル級のスピードでの移動が可能です。
ピロリ菌が移動するために欠かせないべん毛の先端には膜がついていて、べん毛を胃酸から守る役割があると言われています。


■ピロリ菌は研究者の休暇後に見つかった

ピロリ菌を発見したのは、西オーストラリア大学のロビン・ウォーレンとバリー・マーシャルの二人です。
1979年に胃炎を起こしている患者の粘膜に未知の細菌(ピロリ菌)を見つけたウォーレンは、マーシャルと共同研究を行い、100人以上の患者の組織を調べました。その結果、胃炎・十二指腸潰瘍・胃潰瘍を患っているほぼすべての患者の胃に未知の細菌がいることが分かったのです。

細菌が特定の病気の原因であることを証明するために提唱された、コッホの四原則というものがあります。未知の細菌であったピロリ菌も、このコッホの四原則をクリアするために培養を行う必要がありました。

一般的に培養は、細菌を培養機に入れて48時間後に培養が成功したかを確認しますが、ピロリ菌の培養はなかなか成功しませんでした。
何度も培養を繰り返していた二人ですが、1982年のイースターにたまたま休暇を取ります。
その結果、一つの検体が5日間放置されることになり、その結果ピロリ菌の培養に成功したのです。ピロリ菌は培養に4日かかると言われており、イースター休暇で放置したことが功を奏しました。
コッホの四原則では、分離した細菌を別の個体に投与すると同じ病態が現れること、発病した個体の病変から、同じ細菌が分離されることの原則があります。
これを実証するために、1984年マーシャルは培養した細菌を自ら飲み込みました。その後マーシャルが胃炎を発症し、病変から同じ未知の細菌が見つかったことで、胃炎にピロリ菌が関係していることが実証されたのです。
この発見までは胃炎や胃潰瘍・十二指腸潰瘍が発症するのは、生活習慣やストレスが原因だと考えられていました。

ピロリ菌の感染状況

日本人の半数が保有していると言われているピロリ菌ですが、2013年から保険適用が拡大し、胃・十二指腸潰瘍患者しか受けられなかったピロリ菌の除菌治療が広く受けられるようになりました。
それまで年60万件程度だったピロリ菌の一次除菌治療件数は、2013年以降年間150〜160万件にまで伸び、早期の発見・治療が進められています。とはいえ、60代では60%、50代では40%の感染が確認されているので、定期的な検査が必要と言えます。[注1][注2]

【ピロリ菌に感染してしまう原因は?】
ピロリ菌は免疫力が弱く、胃酸の分泌も活発ではない乳幼児の頃に感染すると言われています。具体的な感染原因は分かっていませんが、今ほど衛生状態がよくなかった時代に乳幼児期を過ごした人は、水や食べ物とともにピロリ菌を摂取してしまったと考えられているようです。
特に井戸水を飲んでいた場合、ピロリ菌への感染確率は高いのではないかと考えられています。またピロリ菌に感染している大人から乳幼児に、口を介して感染することもあるようです。
免疫力のある大人になってからのピロリ菌感染は、ほぼないでしょう。

[注1]「ヘリコバクター・ピロリ除菌の保険適用 による胃がん減少効果の検証について」. 1版,2014年| 上村直実 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000167150.pdf(参照:2022-11-08)
[注2]「Helicobacter pylori 除菌後の胃がん| 日本消化器内視鏡学会雑誌https://https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/60/1/60_5/_article/-char/ja/(参照:2022-11-08)

ピロリ菌は予防できる?

衛生環境が整っている現代の日本では、ピロリ菌に感染する可能性は一昔前と比べるとそれほど高くありません。ただ、乳幼児がいる場合は、感染の可能性がありますので予防を意識しましょう。

乳幼児期は胃酸の分泌が少なく、酸自体も弱いです。また免疫力も大人ほど高くありません。そのため、ピロリ菌に感染している大人が子どもにキスしたり、口移しで食べさせたりすると、感染してしまう可能性があります。キスや口移しを避けると同時に、大人がピロリ菌に感染しているかどうかを知ることも大切です。特に50代以上の方は注意しましょう。

ピロリ菌の感染経路は未知の部分も多く、研究が続けられています。

【ピロリ菌にかかったら自覚症状はあるの?】
ピロリ菌に感染すると胃炎を発症します。ただ、胃炎を起こしている段階では自覚症状を感じない人が多いです。胃が痛いほどではなくても、胃に違和感が続いているのであればピロリ菌に感染している可能性があります。

はっきりと自覚症状が出るのは、何らかの病気を発症してからです。胃の病気を発症すると、胃もたれや胸焼け、吐き気や、胃痛・腹痛、食欲不振などの症状が出ます。声が枯れたり、喉の詰まりやイガイガを感じたりするなど、胃以外の場所で症状が出ることもあるようです。

ピロリ菌は胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こすと言われていますが、ピロリ菌に感染している全ての人が病気を発症するわけではありません。ピロリ菌に感染している人で病気を発症してしまうのは、約3割だと言われています。

ただ、日本人の半数がピロリ菌に感染しているわけですから、自覚症状がはっきりなかったとしてもピロリ菌に感染している可能性は十分にあります。

ピロリ菌がもたらすリスク

ピロリ菌に感染すると、どのようなリスクがもたらされるのでしょうか。

ピロリ菌をチェックする方法

ピロリ菌の検査方法は、内視鏡で胃の組織を調べるウレアーゼ試験、吐く息の二酸化炭素含有量を調べる尿素呼気試験、胃粘膜を採取し染色して確認する組織鏡検法や培養してピロリ菌の有無を確かめる培養法など、さまざまな検査方法があります。症状や状況により、検査方法は異なりますが、精度が高い上に負担が少ないのは尿素呼気検査です。

また、ピロリ菌チェックは病院に行かなくてもできます。
GME医学検査研究所では、便の表面を採取棒でこするだけで、簡単に採取・郵送できる検査キットを販売しています。自宅で行え、短期間で検査結果も分かるので気軽に検査したい方におすすめです。
ピロリ菌の有無を調べることは胃がん予防にもつながるため、気になる方はぜひ早めに検査してみましょう。

ピロリ菌感染は早めにチェックして病気の発症を防ごう

日本人の半数が感染しているといわれるピロリ菌。感染自体では重篤な症状が出ることはありませんが、症状が進行すると胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんなどを発症してしまいます。
自覚症状がほとんどないピロリ菌ですから、早めにチェックを行うことが、将来の病気へのリスクに備える一番の方法です。気になる方や長期的に胃に違和感がある方は、できるだけ早めにピロリ菌の検査を行いましょう。

ピロリ菌のまとめ