- ①50歳未満で死亡率が増加傾向である
- ②飛沫感染や傷口からの感染に注意する
- ③手足の壊死を伴うため人食いバクテリアと呼ばれる
- ④傷の管理や治療をしっかり行う
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は突発的に発症し、急速に症状が進行します。
発症後数十時間で腎不全や呼吸不全などを引き起こし、死にいたるケースもあります。手足の壊死を伴う場合があるため、別名「人食いバクテリア」とも呼ばれており、50歳未満に発症者が増えている感染症です。
今回のコラムでは劇症型溶血性レンサ球菌感染症(人食いバクテリア)の日本での感染状況、症状や感染経路についてグラフやイラストを使って解説します。
2021年から日本で患者が増加しています
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の患者数は、2019年が最も多く415例の報告がありました。その後、新型コロナウイルス感染症が流行していた2020年は報告数が減少していましたが、2021年以降から再び増加しはじめ、2023年は過去6年間のうちで2番目に報告数が多い年となりました。(2023年の感染発症例は340例、届出時死亡例は97例の報告)
国立感染症研究所によると最近の傾向としては、20〜49歳の割合が増えていることが報告されています。
20~49歳の症例と死亡例は、2021年(症例:19例 10.7%、死亡例:2例 6.9%)から2023年(症例:82例 24.1%、死亡例:23例 23.7%)の間で10%以上も増加しており、50歳未満を中心に増加しています。また子供よりも大人のほうが高い死亡率となっています。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症を引き起こすA群溶血性レンサ球菌の中でも、M1型株が最も多いのですが、近年欧米ではM1型株の中でもUK系統の株が占める割合が増加してきています。UK系統の株は、従来のM1型株と比較して毒素の産生量が約9倍多く、感染力も高いとされています。
国立感染症研究所からの報告では、日本国内でのM1型株に占めるUK系統株の割合は、2021年14.3%、2022年100%、2023年46.7%とされています。ですが、増加の原因がUK系統株によるものなのかは未だ明らかにされておらず、引き続き調査が進められています。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/group-a-streptococcus-iasrs/12461-528p01.html
溶連菌は常在菌で本来は子供にかかりやすい
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因菌は『A群溶血性レンサ球菌』です。A群溶血性レンサ球菌は常在菌なので、普段から喉の粘膜や皮膚などにいる細菌です。
A群溶血性レンサ球菌の日常よくみられる疾患として「急性咽頭炎」や「とびひ」などがあります。急性咽頭炎の症状は、突然の発熱・咽頭痛・嘔吐などで、発熱後12〜24時間すると日焼けのような発赤が全身に現れます。
もともとは5歳〜10歳くらいの小児への感染が多く、軽症の場合は適切な治療を行えば24時間程度で感染力がなくなります。
このようにA群溶血性レンサ球菌は、通常であれば発熱や咽頭痛を発症するのですが、まれに、通常は細菌が存在しない血液・筋肉・肺などに侵入することがあります。
通常は細菌が存在しない血液・筋肉・肺などに侵入すると、手足の壊死や呼吸不全などの重傷感染症を発症する『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』となります。
『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』は大人での感染が多く、致死率も高いため注意が必要です。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/340-group-a-streptococcus-intro.html
出典)厚労省検疫所:複数国における猩紅熱と侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症の増加
https://www.forth.go.jp/topics/20221218_00002.html
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の感染経路について
人食いバクテリアはどこから感染するのか?以下が『A群溶血性レンサ球菌』の感染経路といわれています。
・患者の咳やくしゃみによる飛沫感染
・接触感染
・経口感染
・傷口からの感染
・粘膜からの感染
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の場合は、傷口や粘膜からの感染が最も多いと考えられています。傷口がある方はもちろん、最近手術をしていたり、帯状疱疹や乾癬のような皮膚疾患のある方も感染の確率は高くなります。
また、風俗店での口腔性交渉により、陰部に感染した症例もあるため、性行為などでも注意が必要です[注1]
ただし、劇症型の感染経路はいまだ確実とはいえず、現在も調査がすすめられています。そのため、A群溶血性レンサ球菌の通常の感染経路でも注意が必要です。
https://www.jscm.org/journal/full/02401/024010041.pdf
なぜ人食いバクテリアなの?人食いバクテリアの症状は?
人食いバクテリアと呼ばれる由縁や、人食いバクテリアの主な症状について解説します。
A群溶血性レンサ球菌の感染初期には、発熱・悪寒や喉の痛みなど、風邪と似た症状があります。
ですが、A群溶血性レンサ球菌の場合は咳やくしゃみ・鼻水の症状は出ず、強い喉の痛みがあるケースが多いです。
※日常生活の中で出る咳やくしゃみなどによって近くの人に感染させることがあります。
『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』は、同じA群溶血性レンサ球菌の感染によって起こり、血液や筋肉、肺などに侵入すると、以下のような症状がみられます。
・頻脈
・呼吸不全
・四肢の疼痛や腫脹
・細胞の壊死
発病から病状の進行が非常に早く、発病後数十時間で手足の壊死や、急性呼吸窮迫症候群などを引き起こします。さらに、肺・腎臓・肝臓など多数の臓器が急速に機能不全を引き起こします。それらの発症によりショックに陥り、さらには死に至るといわれています。
手足の壊死を起こしたり、臓器の機能不全を引き起こすことから【人食いバクテリア】という異名で呼ばれています。
『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』を発症することは稀ではありますが、発症後の進行が非常に早いため、積極的な治療をしても死亡率は約30%と非常に高いといわれています。
https://www.cdc.gov/groupastrep/diseases-public/streptococcal-toxic-shock-syndrome.html
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の検査・治療について
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の診断には、血液などの通常無菌である部位を顕微鏡で観察してレンサ球菌が存在するかを確認します。または、迅速診断キットを使用し抗原検査を実施します。
治療にはペニシリン系の抗生物質が使用されます。壊死性筋膜炎を合併している場合には、壊死している箇所(病巣)を切除する外科処置が行われる場合もあります。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/341-stss.html
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の予防方法について
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の予防方法とは?
A群溶血性レンサ球菌は、飛沫感染・経口感染・接触感染で感染するため、以下のことに注意しましょう。また、劇症型溶血性レンサ球菌感染症は傷口からの感染にとくに注意が必要です。
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①手洗い・うがいをしっかり行う
菌が手についたまま、粘膜や傷口を触ってしまったり、口に触れてしまったりする事で、【経口感染】や【接触感染】を起こします。
日頃から手洗いやうがいをしっかり行って、手についてしまった菌を落とすことが大切です。 -
②外出する時はマスクを着用する
患者の咳やくしゃみから出る飛沫によって【飛沫感染】を起こします。外出時はマスクを着用するようにして、なるべく飛沫を吸い込まないように心がけましょう。
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③傷の管理や治療をしっかり行う
傷口や粘膜などからの感染は最も危険です。傷をつくってしまった場合は、傷口を清潔にして、絆創膏や包帯などでしっかりと保護をしましょう。
また、傷口の処置をする際には、手に菌がついていると感染してしまうため、しっかりと手を消毒した後に処置を行いましょう。皮膚疾患や深い傷ができてしまった場合には医療機関に相談しましょう。
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④溶連菌に感染している人に近づかない
家族がA群溶血性レンサ球菌に感染してしまった場合は、飛沫をすったり、接触してしまったりしない為にも、なるべく部屋を別にしましょう。経口感染を防ぐためにもコップなどの食器も別にしたほうが良いです。
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⑤のどに強い痛みがあればすぐに医療機関を受診する
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の感染経路は完全には分かっていませんが、A群溶血性レンサ球菌の出す毒素が全身に回ることで発症すると言われています。
A群溶血性レンサ球菌による咽頭炎でのどに強い痛みが出ましたら、劇症型の発症を予防する意味でも、A群溶血性レンサ球菌を治療する意味でも早めに医療機関を受診するようにしましょう。
参考)ひまわり医院:「人食いバクテリア」劇症型溶血性レンサ球菌感染症について【感染経路・症状・予防策】
https://soujinkai.or.jp/himawariNaiHifu/stss/
手洗いうがいや傷口の管理をしっかりとして予防をしましょう