- ①HbA1cが示すのは過去1〜2ヶ月の血糖値の平均
- ②HbA1cが6.0%以上の方は詳しい検査が必要
- ③数値が高くても自覚症状がない事も多い
- ④食事・運動などに注意して数値を正常にする
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が示すのは、過去1〜2ヶ月の血糖値の平均になります。血糖値と違い、前日や当日の食事や運動などは反映されないため、日々の積み重ねで数値を正常にする必要があります。
今回のコラムでは数値が高い時の症状や、HbA1cの数値を下げる食品について紹介します。
HbA1cとは何か
HbA1cは、「ヘモグロビンエーワンシー」と呼ばれます。
ヘモグロビンは全身の細胞に酸素を届ける働きをしていますが、このヘモグロビンとブドウ糖が結合すると糖化ヘモグロビンと呼ばれます。全身のヘモグロビンにおける糖化ヘモグロビンの割合を示すものが「HbA1c」です。
糖化ヘモグロビンは、血液中のブドウ糖が多い(血糖値が高い)ほど増え、一度糖化すると元には戻らず赤血球の寿命(120日)を迎えるまで消えません。
このことから、HbA1cが示すのは過去1〜2ヶ月の血糖値の平均になります。
血糖値と違い、前日や当日の食事や運動などは反映されません。
翌日に健康診断があり血糖値を気にして前日の食事を控えるといった対策を取る方がおられますが、この対策で効果があるのは血糖値の検査のみでHbA1cの値は下がりません。そのため、血糖値コントロールは日々の積み重ねが重要となります。
HbA1cの基準値と目標値について
HbA1cの表記には、日本で使用しているJDS(Japan Diabetes Society)値と、日本以外のほぼすべての国が使用しているNGSP(National Glycohemoglobin Standardization Program)値があります。2012年に日本が世界基準に合わせることとなり、現在は診断基準にNGSP値を用いています。検査会社や病院によっては、2つの基準値を結果として併記している場合もあります。
ここでは、NGSP値にて表記しています。
基準値 | 5.6%未満 |
要注意 | 5.6~5.9% |
糖尿病が否定できない | 6.0~6.4% |
糖尿病型 | 6.5%以上 |
HbA1cが6.0%以上の方は詳しい検査が必要となります。
国が、生活習慣病予防のために健康保険に加入している40-74歳に対して実施している特定検診では、5.6%以上で特定保健指導の対象としています。
基準値は健康な人がほぼ入る範囲の数値であるのに対し、目標値とは病気(ここでは糖尿病)の人がどのレベルまで治療するかの目標となる数値です。
早期の血糖値コントロールは、心血管系への合併症の発症を予防したり、進行を遅らせたりすることが確かです。しかし、糖尿病に罹患して長期間経過している場合や心血管疾患の既往がある場合、またはリスクが大きい人に関しては、急激な血糖値の是正や厳格な血糖コントロールが逆に死亡率を上げるという研究結果もあります。
そのため、HbA1cの目標値は、患者の年齢、罹患期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制の有無などで異なります。
【65歳未満の糖尿病患者の目標値設定】
HbA1cが7.0%未満で合併症が有意に予防できるという研究結果を基に、目標値は7.0%未満とします。低血糖などの副作用がなく、血糖コントロールが良好な場合は6.0%未満を目指します。逆に血糖コントロールが安定せず、治療強化が難しい場合の目標値は8.0%未満とします。
血糖正常化を目指す場合 | 6.0%未満 |
合併症予防を目指す場合 | 7.0%未満 |
治療強化が困難な場合 | 8.0%未満 |
【高齢者における糖尿病患者の目標値設定】
高齢者の場合、2016年に日本糖尿病学会と日本老年医学合同委員会によって、「年齢、認知機能、身体機能(日常生活動作:ADL)、併存疾患、重症低血糖障害のリスク、余命などによって目標値を設定すること」と提唱されました。
高齢者は食後高血糖や低血糖を起こしやすく、年齢的にもふらつきや転倒による骨折が起きやすいため、様々な要素や本人、家族の希望などを取り入れて目標値を個別に設定すべきです。
HbA1c8.5%を超えると高浸透圧高血糖状態(著しい高血糖状態による脱水などが起きる状態。高齢者では自覚症状が薄いことが多い)、感染症などによる死亡リスクが急増するため、カテゴリーⅢにおいての目標値は8.5%未満となっています。
HbA1cが高い場合のリスクと症状
HbA1cが高いということは、血糖値が常時高い状態を保っていたということを示しています。血糖値が高くなる原因としては、以下のことが考えられます。
食事 | ・食事量が多い ・間食が多い ・外食が多い ・甘い飲み物を摂取している等 |
ストレス | ・冠婚葬祭 ・引っ越し ・仕事 ・環境の変化等 |
運動量や睡眠時間の低下 | ・日頃運動をしない ・睡眠時間が少ない |
薬物の影響 | ・治療薬の飲み忘れ ・ステロイドや向精神薬など他疾患の治療薬等 |
病気 | ・すい臓がん ・感染症 ・肝硬変 ・内分泌疾患 ・膠原病 ・精神疾患等 |
血糖値が高値になると
のどの渇き
多飲・多尿
倦怠感
意識障害など
が生じますが、自覚症状が出ないことも多いです。
また、以下のような場合は入院治療が必要と判断されます。
・HbA1cが10%以上
・意識障害や深刻な脱水症状など重度の高血糖症状がある場合
・ケトアシドーシス(特に1型糖尿病患者で、ケトン体が蓄積し、生命の危険がある状態)
・糖尿病性昏睡
HbA1cを下げるための食事や方法
◎血糖値の上昇をおさえる食べ物
1.食物繊維が豊富な食品
食物繊維は消化が遅く、血糖値の急激な上昇を抑える効果があります。特に大豆製品、全粒穀物(全粒粉のパンやオート麦)、野菜(特に葉野菜や野菜全般)に含まれます。
2.低GI(グリセミック・インデックス)の食品
GIが低い食品は、血糖値の上昇が緩やかです。
GI値は低・中・高に分けられ、GI値が55以下の食品を低GI値食品と呼びます。
低GI(55以下) | 中GI(56~69) | 高GI(70以上) | |
穀類 | そば スパゲッティ 押し麦 春雨 | 玄米 コーンフレーク | 白米 パン 餅 煎餅 赤飯 |
果物 | キウイ りんご イチゴ グレープフルーツ みかん | パイナップル 柿 ぶどう | 果物ジャム 缶詰 |
野菜 | 葉物野菜 ブロッコリー ピーマン きのこ類 | さつまいも かぼちゃ 栗 | じゃがいも 里いも 長いも 人参 とうもろこし |
肉・魚・豆 | ほとんどの肉類・魚類 豆腐 納豆 大豆 | あずき | |
乳製品 | 牛乳 チーズ ヨーグルト バター | アイスクリーム | 練乳 |
3.健康的な脂質を含む食品
健康的な脂質(モノ不飽和脂肪酸やポリ不飽和脂肪酸)を含む食品は、血糖値の上昇を抑える助けとなります。
モノ不飽和脂肪酸は、化学的に見ると二重結合を1つ持つ脂肪酸です。主にオレイン酸が代表的で、オリーブオイルやアボカドに多く含まれています。他にも、アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツなどのナッツ類、特定の魚、種子などにも見られます。
ポリ不飽和脂肪酸は、化学的に見ると二重結合を2つ以上持つ脂肪酸です。主にオメガ-3系脂肪酸とオメガ-6系脂肪酸に分類されます。
【オメガ-3系脂肪酸】 | 魚(サーモン、マグロ)、えごま油、亜麻仁油、チアの種子などに多く含まれています。主にEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が健康に良い影響を与えることが知られています。 |
【オメガ-6系脂肪酸】 | ひまし油、大豆油、とうもろこし油、ナッツ類などに多く含まれています。体内で必須脂肪酸として機能し、細胞の構成要素として重要な役割を果たします。 |
4.たんぱく質豊富な食品
たんぱく質は、消化が遅く、血糖値の急激な上昇を抑える効果があります。例えば、鶏肉、魚介類、大豆製品などが含まれます。
◎食後血糖値の上昇を抑える食事方法
1.適度な炭水化物の摂取
食事での炭水化物摂取を適度に抑えることが大切です。炭水化物を抜いてしまうと、必要なエネルギーが不足し、空腹感が強くなります。それによりタンパク質や脂質を摂取しすぎることにも繋がるため、適度な量の炭水化物を食事に取り入れ、GIが低い食品を選ぶことが効果的です。
2.食事のバランス
食事全体のバランスを考え、タンパク質、健康的な脂質、食物繊維をバランスよく摂取することが重要です。
炭水化物:タンパク質:野菜=1:1:2(+α:良質な果物、油など)を意識すると良いでしょう。
3.食事のタイミング
一度に大量の食事を摂るのではなく、1日を通して小分けにして食べることで血糖値の変動を抑えることができます。
◎血糖値の上昇を抑える飲み物
水
無糖の水は、食前や食事中に飲むことで血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待できます。
緑茶
緑茶には茶カテキンが含まれており、糖類の消化に関与する消化酵素の働きを阻害して、糖の吸収スピードを穏やかにします。食前に飲むと効果的だったという研究結果もあります。
紅茶
紅茶ポリフェノールが茶カテキンと同様の働きをし、糖の吸収を緩やかにし、血糖値の急激な上昇を防ぎます。
黒豆茶
黒大豆ポリフェノールにはエネルギー代謝を活発にする作用があり、血中の糖分がエネルギーとして使われることにより高血糖を防ぎます。
ハーブティー
特にシナモンやジンジャーを含むハーブティーは、血糖値のコントロールに役立つことがあります。
コーヒー
カフェインの摂取は、一時的に血糖値を上昇させることがありますが、継続的に摂取することでインスリンの効果を向上させる可能性もあります。
これらの食品や飲み物を取り入れることで、血糖値の管理がより効果的になる場合があります。ただし、個々の体質や健康状態によって反応が異なるため、血糖値の管理においては医師や栄養士の指導を受けることが推奨されます。
血糖値上昇を抑えるための生活習慣
血糖値上昇を抑えるためには、適切な運動が重要です。
定期的な運動 | 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)や筋力トレーニングを定期的に行うことで、血糖値をコントロールしやすくなります。週に3回、1回20分以上、トータル150分程度の中程度の運動が推奨されています。 |
食後の軽い運動 | 食後に軽い運動(例えば、食後30分のウォーキング)をすることで、血糖値の急上昇を防ぐことができます。 |
運動のほかに、睡眠やストレスの管理も大事です。十分で質のよい睡眠を確保することで、ホルモンバランスが整い、血糖値のコントロールがしやすくなります。
毎日同じ時間に寝起きする | 平日も週末も、寝る時間と起きる時間を一定に保つことで、体内時計が整い、自然な眠気が訪れやすくなります。 |
入浴 | 睡眠の質を良くするためには、副交感神経優位な状態にすることが大事です。体内の深部体温が下がるときに眠気が生じる仕組みを利用すると、スムーズに入眠できます。 温度:40℃程度のぬるま湯にゆったり浸かる 時間:睡眠の1~2時間前に済ませる |
快適な睡眠環境の整備 | 寝室の温度と湿度:適切な温度(18-22度)と湿度(40-60%)を保つことで、快適に眠ることができます。 暗さと静かさ:寝室を暗くし、静かな環境を作ることで、深い眠りを誘います。必要に応じてアイマスクや耳栓を使用することも効果的です。 ベッドと枕の選択:自分に合ったマットレスと枕を使うことで、身体の負担を軽減し、より良い睡眠が得られます。 |
寝る前の習慣 | リラックスする:就寝前にリラックスする時間を設けましょう。 電子機器の使用を控える:スマートフォン、タブレット、テレビなどのブルーライトは、メラトニンの分泌を抑制し、睡眠を妨げる可能性があります。寝る1時間前にはこれらの使用を控えるようにしましょう。 |
禁煙と適度な飲酒 | 喫煙は血糖値に悪影響を及ぼすことが知られています。また、アルコールは適量に留めることが重要です。 |
ストレス管理 | ストレスは血糖値を上昇させます。ヨガやストレッチ、瞑想、呼吸法などは睡眠前に行っても悪影響がなく、一日の疲労解消にも繋がります。 寝る前に考え事をしてしまう人は、日記を書いて思考を整理したり、明日やるべきことをリスト化して不安を解消したりするのも効果的です。 |
糖尿病の薬物治療について
糖尿病と診断され、食事療法や運動療法で血糖値がコントロールできない場合、医師の判断で薬物療法が選択されます。
糖尿病のタイプや状態に応じて異なる薬物が使われます。主な糖尿病の薬物治療には以下のものがあります。
1.インスリン療法
主に1型糖尿病患者や、2型糖尿病でインスリン分泌が極端に不足している場合に使用される注射剤です。速効型、中間型、長時間型などがあり、血糖値の変動に合わせて使い分けられます。
2.経口血糖降下薬
主に2型糖尿病の患者に使用されます。以下のような種類があります。
【ビグアナイド薬(メトホルミン)】
肝臓での糖の生成を抑制し、インスリンの作用を高めます。
【スルホニルウレア薬(SU薬)】
膵臓からのインスリン分泌を促進します。
【チアゾリジン薬】
インスリンの効きを良くし、筋肉や脂肪組織での糖の取り込みを増加、糖利用の改善や肝臓での糖放出を抑えることで血糖値を改善する薬
【DPP-4阻害薬】
食後にインスリン分泌を促すインクレチン(GLP-1などの消化管ホルモンの総称)は、体内でDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)という酵素によって分解されます。この分解を抑えることで、インスリン分泌を促進します。
【SGLT2阻害薬】
SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管に存在するSGLT2(ナトリウム-グルコース共役輸送体)というタンパク質の働きを阻害します。このタンパク質は、尿中から血液へ糖を再吸収する役割を担っています。SGLT2阻害薬によってこの再吸収が抑制されると、糖が尿中に排泄され、血糖値が低下します。
3.インクレチン関連薬
インクレチンホルモンは食事摂取後に分泌され、インスリン分泌を促進します。これには以下のような薬があります。
GLP-1受容体作動薬: インスリン分泌を促進し、血糖値上昇を抑制します。また、食欲を抑える効果もあります。
4.併用療法
複数の薬物を組み合わせて使用することで、血糖値管理をより効果的にする場合もあります。
HbA1cを測定しよう
自分のHbA1cの数値が気になる場合、どこで検査したらよいのかご紹介します。
病院・クリニック | 糖尿病が疑われる症状がある場合は病院・クリニックを受診しましょう。この場合は、内科または糖尿病内科などが受診先となります。 目や排尿の違和感がある場合は眼科、泌尿器科でも可能です。 |
健康診断 | 現在とくに自覚症状がない場合は、年に一度か二度ある定期健康診断を受けましょう。会社勤めの方は会社の健康診断を、そうではない方は自治体の健康診断になります。 基本的に、血液検査の項目にHbA1cは含まれています。 [注1]35歳未満の者、及び36~39歳の者について、法令に基づく血液検査等の項目の省略の判断は、個々の労働者ごとに、医師が省略可能であると認める場合においてのみ可能になります。 |
薬局やドラッグストア | 指先から採血してセルフで検査ができる場所が全国に複数設置されています。場所が限られるため、自分で探して設置場所に出向く必要があります。 |
郵送検査 | 自宅にいながら測定キットを購入して調べることができます。自分の都合の良いタイミングで実施でき、誰かと対面することなく検査完了できます。 |
定期的にHbA1cを測定することは、糖尿病予防の意識を高めるだけでなく、糖尿病を早期に発見して治療を開始することで症状の悪化や合併症を防ぐことが可能となります。
測定の前日に食事を減らしたり運動をしても変動しない数値のためHbA1cが高いと血糖値が常時高いということになります
日頃から口にするものや食事方法、運動習慣などを見直してHbA1cが正常値になるよう心がけましょう