- ①血糖とはブドウ糖の濃度
- ②高すぎると血管・神経・網膜などに障害がでる
- ③低すぎると低血糖になる
- ④食事や運動などで適切な値を維持する
血糖とは、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)のことで、ブドウ糖は私たちの体の脳や筋肉に必要なエネルギー源です。血糖値は、食事や運動、ストレス、ホルモンなどの影響を受けて変動します。今回のコラムでは血糖値が上下する原因、それに伴う自覚症状や、高血糖になってしまった時の対処法や予防策などを解説します。
血糖とは?基準値はどのくらい?
血糖とは、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度のことを指します。ブドウ糖は体内でエネルギーの主要な供給源として機能します。食事から摂取した糖質(主にブドウ糖)が体内でどのように処理されるか、そしてエネルギーとして利用されるまでの一連のプロセスを糖代謝と呼びます。
具体的には以下のような流れがあります。
●糖代謝のプロセス
食事を摂取すると、消化器官で食べ物からブドウ糖が吸収されます。これが血液中に流れ込みます。
膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが、血液中のブドウ糖を細胞内に取り込ませます。インスリンは細胞の表面にある受容体に結合し、ブドウ糖を細胞内に入れることで血糖値を下げます。
細胞内のミトコンドリアでブドウ糖が代謝され、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーの形に変換されます。このエネルギーは体の機能や運動などに使用されます。
エネルギーが必要ないときには、余ったブドウ糖は肝臓や筋肉でグリコーゲンという形で貯蔵されます。これは、血糖値が下がったときに利用されます。
過剰なブドウ糖は脂肪として貯蔵されることもあります。
糖代謝において、体内でエネルギーとして消費されない余剰のブドウ糖が血中に残っている量を測定するのが血糖値測定です。
血糖値は通常、食事を摂取した後に上昇し、その後インスリンというホルモンの作用によって調整されます。インスリンは、膵臓から分泌され、細胞にブドウ糖を取り込ませることで血糖値を下げる働きをします。これにより、血糖値が安定し、体内の細胞が必要なエネルギーを効率的に利用することができます。
健康な体内では、血糖値は常に一定の範囲内で調整されていますが、食事内容や運動量、代謝の変化などによって変動することがあります。
血糖値は空腹時と食後に採血して測定し、その差異によって健康状態や糖尿病などの病気の可能性を判断することがあります。
空腹時の血糖値 | 食後の血糖値 |
空腹時の血糖値は、通常は食後8時間以上経過した状態で測定したものを指します。 | 食後の血糖値は、食事摂取後1〜2時間後に測定されることが一般的です。この血糖値の変動は、食事の糖質含有量や消化吸収速度に影響されます。 |
病気の診断においては、これらの空腹時と食後の血糖値の変動が重要ですが、その他の健康状態や臨床的な症状、または糖負荷試験やグリコヘモグロビン(HbA1c)などの指標も併せて考慮されます。
したがって、病気の判断には単一の血糖値の変動差だけでなく、その他の臨床データや検査結果も重要です。
空腹時血糖値が100㎎/dl以内、かつ、食後血糖値が140㎎/dl以内の場合は正常値となります。空腹時血糖値が126mg/dl以上かつ食後血糖値が200mg/dlを超える場合、もしくは随時血糖値が200mg/dlを超えている場合は、糖尿病型血糖値と判断されます。
それ以外にも、空腹時だけ高血糖だったり、食後のみ高血糖の場合もあります。このような状態は、糖尿病予備軍として扱われます。[注1]
血糖値を上昇させる原因について
これらの要因が組み合わさることで、血糖値の上昇や変動が引き起こされることがあります。健康状態や生活習慣、そして個々の体質によって、血糖値の管理が異なるため、食事や運動、ストレス管理などを通じて血糖値を適切にコントロールすることが重要です。
1.食事による影響
糖質の接種と速やかな吸収が影響します。食事で摂取した糖質(炭水化物)は、消化器官で分解され、最終的にブドウ糖(グルコース)として吸収されます。
また、高GI(グリセミック・インデックス)の食品や、食事を急いで摂ることで、ブドウ糖が急速に血液中に移動し、血糖値が急上昇します。
2.ストレスの影響
ストレス状態では、副腎からエピネフリン(アドレナリン)やコルチゾールなどのストレスホルモンが放出されます。
ストレスホルモンは肝臓での糖新生を促進し、余分なブドウ糖を血液中に放出することで血糖値を上昇させる作用があります。
3.運動の影響
激しい運動後には、ストレスホルモンの一種であるエピネフリンの放出が増加し、一時的に血糖値が上昇することがあります。
ただし、有酸素運動は血糖値を低下させます効果があります。
高血糖の自覚症状やリスクについて
◎血糖が高いときの自覚症状
多飲(のどが渇く) | 高血糖によって尿中のブドウ糖が増加し、それに伴い体内の水分も失われるため、のどが渇くことがあります。 |
多尿 | 高血糖によって腎臓が余分なブドウ糖を体外に排出しようとするため、頻繁に尿意を感じることがあります。 |
体重減少 | 高血糖の場合、ブドウ糖が細胞に取り込まれずに体外に失われるため、体重が減少することがあります。 |
倦怠感や疲労感 | 細胞がエネルギーを適切に利用できないため、体全体がエネルギー不足に陥り、倦怠感や疲労感を感じることがあります。 |
視覚障害 | 長期間にわたって高血糖が続くと、眼の水晶体にブドウ糖が蓄積し、視力が低下する糖尿病網膜症が進行するリスクがあります。 |
その他の症状 | 高血糖が続くと、皮膚のかゆみ、口渇、感染症の発症リスク増加などの症状が現れることがあります。 |
高血糖が続くと以下の健康リスクが増加するため、早期に適切な治療と管理を行うことが重要です。定期的な血糖値の測定や、医師の指導による、早期発見と予防が推奨されます。
◎高血糖が続くときの健康リスク
糖尿病の進行 | 長期間にわたって高血糖が続くと、インスリンの抵抗性やインスリン分泌能の低下が進行し、糖尿病が慢性化するリスクがあります。 |
血管障害 | 高血糖が血管内皮細胞にダメージを与え、動脈硬化や心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など)のリスクを高める可能性があります。 |
神経障害 | 高血糖が末梢神経にダメージを与え、末梢神経障害(特に手足のしびれや痛み)を引き起こす可能性があります。感覚鈍麻により怪我したことに気づかず、傷口から感染が広がり、足の壊疽などの合併症のリスクが高まります。 |
網膜症 | 糖尿病網膜症により、視力低下や失明のリスクが増加します。 |
腎障害 | 高血糖が腎臓にダメージを与え、糖尿病性腎症を引き起こすリスクがあります。 |
低すぎると低血糖になってしまう
低血糖症状とは、血液中のブドウ糖(グルコース)の濃度が低下し、中枢神経等がエネルギー不足となった場合に現れる、特有の症状を指します。
低血糖症状があってもなくても、血糖値が70mg/dLより低い場合
血糖値が70mg/dLより高くても、低血糖症状のある場合
上記の場合も総合的に判断して、低血糖状態と診断されます。
◎低血糖の原因
インスリンやその他の血糖降下薬の過剰投与 | 糖尿病患者がインスリンや経口血糖降下薬を使用している場合、投与量が過剰だったり、タイミングが誤っていたりすると低血糖が起こることがあります。 |
食事のタイミングや内容の不均衡 | 食事を適切なタイミングで摂取しなかったり、炭水化物の摂取が不足したりすると、十分なブドウ糖が供給されず低血糖になることがあります。 |
過度の運動 | 過度の運動により、消費されるエネルギーが供給されるブドウ糖を上回る場合、低血糖が引き起こされることがあります。 |
アルコールの摂取 | アルコールは肝臓の糖新生を抑制させるので、低血糖の原因になる場合があります。 |
その他の状況 | 他にも、ストレス、病気や感染症、特定の内分泌障害などが低血糖の原因となる場合があります。 |
低血糖も早期発見と適切な対処が重要です。糖尿病患者やその周囲の人々は、低血糖の症状を理解し、必要な場合は即座に対処するための準備をしておきましょう。
◎低血糖の症状
頭痛やめまい | 脳がブドウ糖をエネルギー源として使用できないため、頭痛やめまいを感じることがあります。 |
不安感 | 血糖が低下すると、自律神経系が反応して不安感を引き起こすことがあります。 |
発汗やふるえ | 低血糖の時、交感神経が活発化し、発汗や手足のふるえが見られることがあります。 |
集中力の低下や錯乱 | 脳のエネルギー供給が不足すると、集中力が低下し、場合によっては錯乱状態に陥ることがあります。 |
飢餓感や異常な食欲 | 低血糖時には飢餓感が強まり、異常な食欲が出ることがあります。 |
意識障害や昏睡 | 重症の低血糖では意識障害を引き起こし、昏睡状態に陥ることがあります。これは、緊急の医療処置を要します。 |
血糖値の上昇を抑える食材とは?
これらの食品や飲み物を取り入れることで、血糖値の管理がより効果的になる場合があります。ただし、個々の体質や健康状態によって反応が異なるため、血糖値の管理においては医師や栄養士の指導を受けることが推奨されます。
◎血糖値の上昇をおさえる食べ物
1.食物繊維が豊富な食品
食物繊維は消化が遅く、血糖値の急激な上昇を抑える効果があります。特に大豆製品、全粒穀物(全粒粉のパンやオート麦)、野菜(特に葉野菜や野菜全般)に含まれます。
2.低GI(グリセミック・インデックス)の食品
GIが低い食品は、血糖値の上昇が緩やかです。
GI値は低・中・高に分けられ、GI値が55以下の食品を低GI値食品と呼びます。
低GI(55以下) | 中GI(56~69) | 高GI(70以上) | |
穀類 | そば スパゲッティ 押し麦 春雨 | 玄米 コーンフレーク | 白米 パン 餅 煎餅 赤飯 |
果物 | キウイ りんご イチゴ グレープフルーツ みかん | パイナップル 柿 ぶどう | 果物ジャム 缶詰 |
野菜 | 葉物野菜 ブロッコリー ピーマン きのこ類 | さつまいも かぼちゃ 栗 | じゃがいも 里いも 長いも 人参 とうもろこし |
肉・魚・豆 | ほとんどの肉類・魚類 豆腐 納豆 大豆 | あずき | |
乳製品 | 牛乳 チーズ ヨーグルト バター | アイスクリーム | 練乳 |
3.健康的な脂質を含む食品
健康的な脂質(モノ不飽和脂肪酸やポリ不飽和脂肪酸)を含む食品は、血糖値の上昇を抑える助けとなります。
モノ不飽和脂肪酸は、化学的に見ると二重結合を1つ持つ脂肪酸です。主にオレイン酸が代表的で、オリーブオイルやアボカドに多く含まれています。他にも、アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツなどのナッツ類、特定の魚、種子などにも見られます。
ポリ不飽和脂肪酸は、化学的に見ると二重結合を2つ以上持つ脂肪酸です。主にオメガ-3系脂肪酸とオメガ-6系脂肪酸に分類されます。
【オメガ-3系脂肪酸】
魚(サーモン、マグロ)、えごま油、亜麻仁油、チアの種子などに多く含まれています。主にEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)が健康に良い影響を与えることが知られています。【オメガ-6系脂肪酸】
ひまし油、大豆油、とうもろこし油、ナッツ類などに多く含まれています。体内で必須脂肪酸として機能し、細胞の構成要素として重要な役割を果たします。4.たんぱく質豊富な食品
たんぱく質は、消化が遅く、血糖値の急激な上昇を抑える効果があります。例えば、鶏肉、魚介類、大豆製品などが含まれます。
◎食後血糖値の上昇を抑える食事方法
1.適度な炭水化物の摂取
食事での炭水化物摂取を適度に抑えることが大切です。炭水化物を抜いてしまうと、必要なエネルギーが不足し、空腹感が強くなります。それによりタンパク質や脂質を摂取しすぎることにも繋がるため、適度な量の炭水化物を食事に取り入れ、GIが低い食品を選ぶことが効果的です。
2.食事のバランス
食事全体のバランスを考え、タンパク質、健康的な脂質、食物繊維をバランスよく摂取することが重要です。
炭水化物:タンパク質:野菜=1:1:2(+α:良質な果物、油など)を意識すると良いでしょう。
3.食事のタイミング
一度に大量の食事を摂るのではなく、1日を通して小分けにして食べることで血糖値の変動を抑えることができます。
◎血糖値の上昇を抑える飲み物
水
無糖の水は、食前や食事中に飲むことで血糖値の上昇を緩やかにする効果が期待できます。
緑茶
緑茶には茶カテキンが含まれており、糖類の消化に関与する消化酵素の働きを阻害して、糖の吸収スピードを穏やかにします。食前に飲むと効果的だったという研究結果もあります。
紅茶
紅茶ポリフェノールが茶カテキンと同様の働きをし、糖の吸収を緩やかにし、血糖値の急激な上昇を防ぎます。
黒豆茶
黒大豆ポリフェノールにはエネルギー代謝を活発にする作用があり、血中の糖分がエネルギーとして使われることにより高血糖を防ぎます。
ハーブティー
特にシナモンやジンジャーを含むハーブティーは、血糖値のコントロールに役立つことがあります。
コーヒー
カフェインの摂取は、一時的に血糖値を上昇させることがありますが、継続的に摂取することでインスリンの効果を向上させる可能性もあります。
血糖値上昇を抑えるための生活習慣
血糖値上昇を抑えるためには、適切な運動が重要です。
定期的な運動 | 有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)や筋力トレーニングを定期的に行うことで、血糖値をコントロールしやすくなります。週に3回、1回20分以上、トータル150分程度の中程度の運動が推奨されています。 |
食後の軽い運動 | 食後に軽い運動(例えば、食後30分のウォーキング)をすることで、血糖値の急上昇を防ぐことができます。 |
運動のほかに、睡眠やストレスの管理も大事です。十分で質のよい睡眠を確保することで、ホルモンバランスが整い、血糖値のコントロールがしやすくなります。
毎日同じ時間に寝起きする | 平日も週末も、寝る時間と起きる時間を一定に保つことで、体内時計が整い、自然な眠気が訪れやすくなります。 |
入浴 | 睡眠の質を良くするためには、副交感神経優位な状態にすることが大事です。体内の深部体温が下がるときに眠気が生じる仕組みを利用すると、スムーズに入眠できます。 温度:40℃程度のぬるま湯にゆったり浸かる 時間:睡眠の1~2時間前に済ませる |
快適な睡眠環境の整備 | 寝室の温度と湿度:適切な温度(18-22度)と湿度(40-60%)を保つことで、快適に眠ることができます。 暗さと静かさ:寝室を暗くし、静かな環境を作ることで、深い眠りを誘います。必要に応じてアイマスクや耳栓を使用することも効果的です。 ベッドと枕の選択:自分に合ったマットレスと枕を使うことで、身体の負担を軽減し、より良い睡眠が得られます。 |
寝る前の習慣 | リラックスする:就寝前にリラックスする時間を設けましょう。 電子機器の使用を控える:スマートフォン、タブレット、テレビなどのブルーライトは、メラトニンの分泌を抑制し、睡眠を妨げる可能性があります。寝る1時間前にはこれらの使用を控えるようにしましょう。 |
禁煙と適度な飲酒 | 喫煙は血糖値に悪影響を及ぼすことが知られています。また、アルコールは適量に留めることが重要です。 |
ストレス管理 | ストレスは血糖値を上昇させます。ヨガやストレッチ、瞑想、呼吸法などは睡眠前に行っても悪影響がなく、一日の疲労解消にも繋がります。 寝る前に考え事をしてしまう人は、日記を書いて思考を整理したり、明日やるべきことをリスト化して不安を解消したりするのも効果的です。 |
定期的に血糖値を測りましょう
自分の血糖値の状態が気になる場合、どこで検査したらよいのかご紹介します。
自覚症状のない人の場合は、1を除く方法での定期検査が選択できます。定期的に血糖値を測定することは、糖尿病予防の意識を高めるだけでなく、血糖値の異常を早期に発見し、迅速な受診行動に繋がります。
1.病院・クリニック
糖尿病が疑われる症状がある場合は病院・クリニックを受診しましょう。この場合は、内科または糖尿病内科などが受診先となります。目や排尿の違和感がある場合は眼科、泌尿器科でも可能です。
2.健康診断
現在とくに自覚症状がない場合は、年に一度か二度ある定期健康診断を受けましょう。会社勤めの方は会社の健康診断を、そうではない方は自治体の健康診断になります。
基本的に、血液検査の項目に血糖値は含まれています。
([注2]35歳未満の者、及び36~39歳の者について、法令に基づく血液検査等の項目の省略の判断は、個々の労働者ごとに、医師が省略可能であると認める場合においてのみ可能になるため、血糖値を測定しない場合もあります)
3.薬局やドラッグストア
指先から採血してセルフで検査ができる場所が全国に複数設置されています。場所が限られるため、自分で探して設置場所に出向く必要があります。
4.郵送検査
測定キットを購入して、自宅にいながら血糖などを調べることができます。自分の都合の良いタイミングで実施でき、誰かと対面することなく検査完了できます。
食事や運動・睡眠などの生活習慣を見直して血糖が正常値になるように日頃から気をつけましょう