- ①性交渉経験のある人の8割が感染する
- ②遺伝子型で発症する病気が異なる
- ③HPVは持続感染するとがんを引き起こす
- ④定期的な検査やワクチンで予防する
性交経験者の80%が、子宮頸がんの原因と言われているヒトパピローマウイルスに感染しています。
ほとんどの場合が一過性の感染で、時間の経過とともに90%以上は体内から自然消失しますが、高リスク型HPVに持続感染していると「がん」などを引き起こす可能性が高くなります。
今回のコラムでは、HPV(ヒトパピローマウイルス)とワクチンについて解説します。
ヒトパピローマウイルスって何?
HPV(ヒトパピローマウイルス)は性交渉経験のある人の8割が感染するといわれる、感染しやすいウイルスです。感染しやすいウイルスですが、ほとんどの方は自己免疫力で排除するため、二年以内に自然治癒します。ただし、自然治癒したあとに、繰り返し感染することもあります。
HPVには100種類以上の遺伝子型があります。
目に見える場所にわかりやすくイボができるものもあれば、性器や肛門の内部など見えない場所にイボができることもあります。性器だけではなく、皮膚にもイボが現れることもあります。
どの遺伝子型のHPVも、主な感染経路は性行為とその類似行為による接触感染です。
感染部位にウイルスが多く存在していますので、その部分との接触により感染が起こります。
HPVは細胞に感染しますので、その細胞が剥がれ落ちて腟分泌液などの体液中に含まれるようになるため、体液にも注意が必要です。そのため、挿入を伴う性行為以外に、オーラルセックスでも感染します。
その他にも陰嚢や外陰部、肛門周辺にもHPVが存在していることがあります。そのため、コンドーム使用による予防効果は限定的です。
HPVの感染経路と発症する病気について
HPVには100種類以上の型(遺伝子型)が存在します。
性行為とその類似行為によって感染する性感染症です。通常、挿入を伴う性行為で感染しますが、手指や口腔の接触、挿入を伴わない性器の接触によっても感染します。
高リスク型は13種類
主に16型、18型が原因でこれらは発がん性が高く、子宮頸がんをはじめ、腟がん、外陰がん、陰茎がん、肛門がん、膀胱がん、中咽頭がんなどの原因になります。
◎子宮頸がん:ほぼ全ての子宮頸がんがHPV感染によって起こり、70%は16,18型が原因となります。
通常、子宮頸がんに進行するには、感染してから15-20年ほどかかりますが、免疫力の落ちた人では、5-10年で発症することがあります。
子宮頸がんに進行した場合には、それに付随した症状が発現します。(性交後の不正出血、骨盤痛、ニオイのあるおりもの、体重減少、食欲不振、倦怠感、片足だけの浮腫など)
◎中咽頭がん:16型が多いです。
低リスク型の数種類
主に6型、11型が原因。体の外側にできる良性のイボで、尖圭コンジローマと呼ばれます。イボは鶏のトサカに似た尖ったもので、薄いピンク色または褐色です。陰部や肛門に発生し、密集するとカリフラワーのように見えます。潜伏期間は3週~8ヶ月(平均2.8ヶ月)
イボは通常痛みやかゆみがなく気づかないこともありますが、一部の人は灼熱感、かゆみ、不快感などを伴うこともあります。
免疫抑制状態(免疫抑制剤の服用、HIV感染者、糖尿病患者など)ではHPVに感染しやすく、自然排出もされにくくなります。そのため、尖圭コンジローマの症状が出やすく、再発もしやすくなってしまいます。低リスク型ががんを引き起こす可能性は低いです。
HPVは感染すると除去できない⁉感染を調べるには?
HPVに感染しても90%以上の人が、免疫力によって自然にHPVを体外に排除し、感染していない状態へ戻っていきます。HPVが持続感染した場合、がんの原因となる異形成を引き起こすことがあります。ですが、現在では持続感染したHPVを薬などで治療する方法はありません。
異形成は、HPVが体外に排除されれば正常な細胞へと戻っていきますが、感染状態が続いていると軽度異形成からだんだん中等度異形成、高度異形成へと変化し、やがて『がん細胞』になります。
異形成や子宮頸がんのごく初期の段階であれば、子宮を温存して治療することが可能です。まずはHPV検査をうけて感染の有無を調べましょう。高リスク型のHPVに感染していると分かったら、定期的に子宮頸部細胞診を受ける事が大切です。
GMEでは中〜高リスク型のHPVの感染を調べる検査キットや、子宮頸がん検査キットを取り扱っています。ネットまたは電話で注文でき、自宅で検体を採取をして、ポスト投函でGMEに送るだけで検査結果が得られます。併せて子宮頸がんの検査も行うことで、子宮頸がんの見逃しをほぼゼロにすることができ、早期発見に大きく役立ちます。
病院の診察台が苦手な方や、土日しか休みがとれず時間が作れない方などに、おすすめの検査方法です。
HPVワクチン接種は男女ともに必要
国内で接種できるHPVワクチンは現在3種類あります。
2価ワクチン(サーバリックス):16・18(高リスク型)
4価ワクチン(ガーダシル):16・18(高リスク型)、6・11(低リスク型)
9価ワクチン(シルガード):16・18・31・33・45・52・58(高リスク型)、6・11(低リスク型)
16・18型の感染を防ぐことで、子宮頸がんの原因の50〜70%を防ぎます。
9価ワクチン(シルガード)ではさらに予防効果が高く、80〜90%を防ぐと言われています。
いずれのワクチンも子宮頸がんを予防する効果が認められており、性交渉を経験する前に接種するのが理想です。既に性交渉を経験したことがある場合でも、すでに感染してしまった型以外は予防できるため、今後のさらなる感染予防として接種することは決して無駄なことではありません。
HPVワクチンの効果は接種から12年維持できる可能性があることがわかっています。
HPVは主に性的接触により感染します
そのため、男性のHPV感染を防ぐことで女性を守ることになり、子宮頸がんの予防効果がさらに高まります。
男性の場合は、HPVによる陰茎がん、肛門がん、中咽頭癌などを予防することもできるため、自身の発がん予防としても効果があります。
厚生労働省は、男性においてもHPVワクチンの定期接種の実施を検討しています。自治体によっては独自に助成を行っているところもあります。
HPVワクチンの主な副反応は以下のようなものがあります。
表1 HPVワクチン接種後の主な副反応[注1]
発生頻度 | 2価ワクチン(サーバリックス®) | 4価ワクチン(ガーダシル®) | 9価ワクチン(シルガード®9) |
50%以上 | 疼痛、発赤、腫脹、疲労 | 疼痛 | 疼痛 |
10~50%未満 | かゆみ、腹痛、筋痛、関節痛、頭痛など | 紅斑、腫脹 | 腫脹、紅斑、頭痛 |
1~10%未満 | じんましん、めまい、発熱など | 頭痛、かゆみ、発熱 | 浮動性めまい、悪心、下痢、かゆみ、発熱、疲労、内出血など |
1%未満 | 知覚異常、感覚鈍麻、全身の脱力 | 下痢、腹痛、四肢痛、筋骨格硬直、硬結、出血、不快感、倦怠感など | 嘔吐、腹痛、筋肉痛、関節痛、出血、血腫、倦怠感、硬結など |
頻度不明 | 四肢痛、失神、リンパ節症など | 失神、嘔吐、関節痛、筋肉痛、疲労など | 感覚鈍麻、失神、四肢痛など |
サーバリックス®添付文章(第14版)、ガーダシル®添付文書(第2版)、シルガード®9添付文書(第1版)より改編
副反応の中にはまれに重大な症状を伴うものがあります。
表2 ワクチンとの関係が否定できない重大な事象[注2]
病気の名前 | 主な症状 | 報告頻度※ |
アナフィラキシー | 呼吸困難、じんましんなどを症状とする重いアレルギー | 約96万接種に1回 |
ギラン・バレー症候群 | 両手・足の力の入りにくさなどを症状とする末梢神経の病気 | 約430万接種に1回 |
急性散在性脳脊髄炎(ADEM) | 頭痛、嘔吐、意識の低下などを症状とする神経の病気 | 約430万接種に1回 |
複合性局所疼痛症候群 | 外傷をきっかけとして慢性の痛みを生ずる原因不明の病気 | 約860万接種に1回 |
※2013年3月までの報告のうちワクチンとの関係が否定できないとされた報告頻度
HPVワクチン接種後に全身に強い痛みが生じるなどのさまざまな症状が報告され、ワクチンの積極的な接種推奨を差し控えた時期がありました。
痛みや不随意運動などの身体症状は、血液や画像などの検査を行っても症状に合致する所見が見つからない状態である、「機能性身体症状」であると考えられています。
全身の痛み、しびれ、倦怠感、歩行障害、記憶障害、めまい、脱力感、睡眠障害、学習意欲の低下、集中力の低下、光過敏など、様々な症状が報告されています。
このような報告を受け、平成25年4月から定期予防接種となったHPVワクチンですが、同年6月から定期接種という位置づけは変えずに、個別に予診票を送るなどの接種勧奨を差し控えていました。
その後、ワクチンの有効性や安全性に関する評価や、接種後に生じた症状への対応などの議論が継続して行われていました。
HPVワクチン接種後の様々な症状は、専門家による調査研究が行われていますが、HPVワクチンを打たない人でも同様の症状を引き起こす人が一定数いること、HPVワクチンの疼痛などにより様々な症状が引き起こされた可能性は否定できないが、ワクチン接種後一ヶ月以上経っての発症はHPVワクチン接種の副反応とは考えにくい、などの理由から、HPVワクチンとの因果関係があることは証明されていません。
令和3年11月に厚生労働省が開催した専門家の会議で、改めてHPVワクチンの安全性が他の定期接種のワクチンと比べて特に低い訳ではないことが確認され、接種によって子宮頸がんを予防できるという有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められ、差し控えの状態を終了させることになり、令和4年4月から、他の定期接種と同様に、個別の勧奨を行うことなりました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_qa.html#Q2-15
参考) リーフレットを掲載している厚生労働省ホームページ「HPVワクチンに関する情報提供資材」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/leaflet.html
HPVワクチンを接種するには?
現在、国内のHPVワクチンは、小学校6年〜高校1年相当の女子を対象に、公費による定期接種が行われています。
平成9年度〜平成18年度生まれ(誕生日が1997年4月2日〜2007年4月1日)の女性で、通常のHPVワクチン定期接種の対象年齢の間に、接種を逃した方への接種も公費で行われています。キャッチアップ対象の人は、令和7年3月までにHPVワクチンの接種を終える必要があります。
HPVワクチンは、接種時期が近くなると自治体から対象者にお知らせがあります。その指示に従って医療機関を予約し、ワクチン接種を受けることができます。
対象者に該当しない方でも、任意接種としてHPVワクチンを接種することは可能です。お近くの医療機関などにご相談ください。ただし、この場合、予防接種法に基づく定期接種(公費での接種)の対象ではないため、接種費用は全額自己負担となります。
HPVは持続感染してしまうと厄介な病気を引き起こすウイルスです。
型によっては、子宮頸がんや中咽頭がんの発症原因となる場合があるため、性行為など感染の不安があった際には検査をして、高リスク型に感染していないか調べることが大切です。
HPV感染は郵送検査をつかえば簡単に調べることができるため、定期的な検査におすすめです。また、ワクチンの接種でも予防が可能です。
HPVの感染拡大を防ぐために、男女ともに感染予防を心がけましょう。