- ①胃がんは50代以降の男性に多い
- ②食生活やストレス、ピロリ菌などが原因
- ③初期症状がなく症状が分かりづらい
- ④定期的な検査と生活習慣を正して予防する
胃がんは、男性ではおよそ10人に1人、女性ではおよそ21人に1人が一生のうちに罹患すると推定されています。(2019年の統計)
初期症状があまり無く、症状が出ても他の病気と似ているため気がつきにくい特徴があります。今回のコラムでは胃がんの症状や進行するとどうなるのか、検査方法や治療方法について解説していきます。
胃がんってどんな病気?
胃は、食物を消化し、腸へと送る臓器です。
胃の壁は内側から「粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿(しょう)膜下層、漿膜」と5層から成り立ちます。
胃がんは粘膜に生じたがん細胞がどんどん増殖することで発生し、粘膜から外側に浸潤するほどがんの進行度が高くなります。
胃がんの中には、胃壁を肥厚させるがんがあります。『スキルス胃がん』と呼ばれ、普通のがんのように粘膜表面に塊を作らず、胃壁の内部を這うように広がるため、内視鏡検査などでみつかりにくく、早期発見が難しくなっています。
胃がん全体の7%、進行胃がんに限ると15%がスキルス胃がん[注1]です。胃がんに関わらず、全がん種の中でもスキルス胃がんはとくに難治性が高くなっています。
部位別がん罹患数では、胃がんの罹患数は男女とも第3位です。人口あたりの罹患率は98.5 例(男性138.9 例、女性60.2 例)(人口10万対)[注2]
男性の罹患率は女性より2倍以上高くなっています。
年代別では男女とも50代以降急激に患者数が増える傾向にあります。
人口あたりの死亡率は34.3 人(男性46.3 例、女性22.9 例)(人口10万対)[注3]
死亡率も罹患率と比例して男性が多く、高齢になるにつれ上昇します。部位別死亡率では、男性は肺がんに続いて第2位、女性は大腸がん、肺がん、乳がんに続いて第4位です。
胃がんは、罹患率、死亡率ともにゆるやかに減少を続けていますが、全がん種別で比較すると日本ではまだ代表的ながんといえるでしょう。
[注2]※出典)がん情報サービス がん種別統計情報 胃 https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/5_stomach.html#anchor1
胃がんの原因について
胃がんの原因としては下記などがあります。
・多量の塩分摂取
・喫煙
・飲酒
・栄養バランスの偏った食生活
・過労
・ストレス
・ヘリコバクター・ピロリ菌感染
胃がんは、胃の粘膜が刺激されることで発生しやすくなるので、飲酒や塩分過多などで胃壁に強い刺激を与え続けることががん発生のリスクとなります。
欧米より東洋人に多く、人種差が重要な因子と考えられたこともありましたが、海外で暮らす日本人は胃がんよりも大腸がんの発症が多いことから、食生活が大きな因子ではないかと考えられます。日本では、東北の日本海側で胃がん発症率が高く、漬物などの塩分摂取が多いこと、飲酒量が多いことなどと相関があると考えられます。
ヘリコバクター・ピロリ菌について
ヘリコバクター・ピロリ菌は、大人になってからの感染はほぼ無く、まだ胃酸の弱い5歳以下の乳幼児期に経口感染します。ピロリ菌は胃酸のなかでも生きることができるらせん状の細菌で、水や食物を介して感染します。多くの人は、ピロリ菌に感染していても無症状ですが、症状がないまま胃壁が荒れた状態が続き、それががんの発生に繋がります。感染したからといって全員が胃がんになるわけではありませんが、胃がんのリスク因子としては最も高くなっています。
ピロリ菌は薬物で除菌することが可能で、一部の胃がんは除菌によって予防できます。そのため、ピロリ菌感染の有無を検査することは重要な意味を持っています。
ヘリコバクター・ピロリ感染の検査には、尿素呼気試験、血液中の抗体測定法、便中抗原測定法などがあります。
尿素呼気試験や血液中の抗体測定では医療機関で検査を行う必要がありますが、便中の抗原検査ではご自身で検体採取ができるため、比較的手軽に検査を行うことができます。
胃がんになるとどうなるの?
胃がんは初期症状があまりありません。胃の不快感、胃痛、胸焼け、吐き気、食欲不振などの自覚症状が現れることがありますが、胃炎や胃潰瘍でも同じ症状がみられるため、見過ごす可能性もあります。
胃がんが進行すると、がんからの出血による黒い便(タール便)、全身倦怠感、体重減少、吐血、腹痛、貧血、腹水貯留などが起きます。
また、胃がんは他の臓器などにも転移します。
胃がんの転移ルートは3種類あります。
血行性転移:血液を介して全身にがんが転移します。脳転移、肺転移など
腹膜播種性転移:胃から浸潤したがんが腹腔内に飛び散ります。男性では直腸膀胱窩転移、女性では直腸子宮窩転移
リンパ行性転移:リンパの流れにのって転移します。左鎖骨上窩リンパ節転移、女性では卵巣転移
症状が無いからといって放置してしまうと、深いところまでがんが進行してしまっていたり、胃以外の臓器にも転移をおこしてしまう可能性があります。日頃から予防をしたり、定期的に検査を受けることが大切です。
胃がんを発見・治療するためには
胃がんの検査について
胃がんの検査は、がんであるかどうか確定診断するための検査と、がんの進行度を調べる検査があります。
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内視鏡検査
胃の中にカメラを挿入して直接病変の有無や範囲を確認します。内視鏡から病変部を採取して病理診断のための生検を行うこともできます。
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X線検査(バリウム検査)
バリウムを飲んで胃を満たし、X線で胃の形や粘膜の状態を確認します。
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生検・病理検査
がんが疑われる部位の組織を直接採取して、顕微鏡でがんの有無や組織型を調べます。
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CT・MRI検査
体の離れた部位、リンパ節への転移や、胃に接する臓器への浸潤の有無を調べます。CTはX線、MRIは磁気を使って体の断面を画像にし、検査することができます。
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PET検査
がん細胞は増殖のため多くのブドウ糖を必要とします。PET-CTではブドウ糖によく似た薬剤である放射線薬剤FDG(ブドウ糖類似PET検査薬)を血管から注入し、全身の組織のどこにFDGが集積されるかを観察します。放射線薬剤FDGが集積される場所に、腫瘍や炎症があると考えます。胃がんでは、再発や転移がないか調べるために行われます。
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注腸・大腸内視鏡検査
がんが大腸に広がっていないか、腹膜播種による大腸狭窄がないかを調べます。注腸検査は肛門からバリウムと空気を注入し、X線で透視下の検査をします。大腸内視鏡は肛門から内視鏡を挿入し、直接大腸内を映像で確認します。
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腫瘍マーカー検査
がんの診断や、治療の効果などを知るために用います。腫瘍マーカーとは、がんの種類によって生成される特殊なタンパク質などで、胃がんの腫瘍マーカーとしてはCEAやCA19-9などが使われます。
胃がんの治療について
胃がんの治療はいくつか種類がありますが、がんの進行度やがんの性質、患者の体の状態などを考慮して治療法が選択されます。
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内視鏡的治療
一部の早期がんに対して行われます。リンパ節転移の可能性が極めて低いこと、腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあることが原則です。
EMR(内視鏡的粘膜切除術)とESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の2つの術式がありますが、昔から主流だったEMRでは大きな病変は一括で切除できず、分割することでがん組織を取りそこねたり、再発の原因になることが問題でした。ESDではがんの大きさなど問題にならず、一括切除が可能になりました。 -
手術療法
胃がんの最も標準的な治療方法です。がん細胞をすべて除去することを目的とします。
開腹手術:お腹を20cmほど縦に切開し、胃と周辺のリンパ節すべてを切除する術式です。視野が広いため腹腔内の観察が容易で、あらゆる状況に対処しやすいため、今でも胃がん手術の重要な手法です。がんの部位や進行度によって、さらに3種の術式(幽門側胃切除、胃全摘、噴門側胃切除)が選択されます。
腹腔鏡下手術:お腹に小さな穴をいくつか開け、カメラや手術器具を挿入、モニターで腹腔内の様子を見ながら胃を切除します。メリットとしては、痛みが少ないこと、麻酔による術後呼吸機能の低下が少ないこと、出血量が少ないこと、腸の蠕動運動機能低下が少ないこと、画面で術野を拡大して詳細部分が見やすいこと、などが挙げられます。
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薬物療法
薬物療法は抗がん剤を用いる理由によって3種類に分けられます。
術後補助化学療法:手術によってがんを切除したあと、再発を防ぐ目的で行われます。
術前化学療法:小さながんを取り残す可能性が高い場合や、リンパ転移が多く術後再発が危ぶまれるときなどに選択されます。
進行・再発がんに対する化学療法:遠隔転移が多い、腹膜播種があるなどの進行がん、再発がんの場合、手術の適応にならず、化学療法が主な治療となります。
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放射線療法
通常は胃がんに対しては効果が少なく、健康な腸を傷つける可能性が高いため実施されませんが、他臓器の転移に照射したり、胃がんからの出血を止める目的で使われることがあります。
胃がんを予防するために大切なこと
日本人の胃がん統計からみると、胃がん予防としては、過度な塩分摂取、飲酒、喫煙をしないこと、ストレスを貯めないこと、バランスのとれた食生活を心がけること、適切な体型維持をすること、定期的ながん検診を受けること、そしてヘリコバクター・ピロリ菌に感染しないことなどが大事になります。
国は、50歳以上の人に対して2年に1度の内視鏡検査またはバリウム検査を勧めています。しかし、なにか気になる症状がある場合は、定期検査を待たず早めに医療機関を受診して検査を受けましょう。
ヘリコバクター・ピロリ菌に感染しているかどうかは、胃がん発症に大きく関わります。しかし、現在国の推奨する定期検診の項目には含まれておらず、医療機関によってはオプション検査項目として用意されていることがあります。
ピロリ菌感染の有無は、郵送検査で簡単に調べることが可能です。GMEでは検査結果を持参するとスムーズに治療が受けられるように、複数の医療機関と提携しています。ピロリ菌に感染していた場合、協力医療機関で除菌治療を受けることもできます。胃がんの発症を予防するきっかけに、郵送検査を用いることも良いのではないでしょうか。
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