HIVのまとめ
- ①新型コロナウイルスの影響で、検査・感染報告数は大幅に減少
- ②新規HIV感染者・エイズ患者報告数全体の約30%がいきなりエイズ
- ③HIV治療薬は自分のタイミングで1日1錠飲むだけでよい
- ④U=Uとは治療を受けHIVがコントロールできていれば相手に感染させないこと
- ⑤PrEPで予防できるのはHIV感染だけ
「感染したら死んでしまう」と思っている人は少なくないと思います。HIVの治療は近年劇的に進化しており、現在では、きちんとした治療を受けることさえできれば平均寿命をまっとうすることも可能です。
病気の進行を遅らせる治療薬なども出ているため、予防法も自分の考え方やライフスタイルに合せて選択が可能になりました。
今回は、最新のHIV/エイズの知識と情報を解説していきます。
エイズとはHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染することによって起こる病気です。
HIVは主に性行為で感染します。精液や腟分泌液、血液などにHIVが含まれていますので、それらと粘膜が接触することにより感染します。
また、HIVは母子感染を起こすことが知られています。HIVに感染している母親の胎盤を通じて赤ちゃんに感染したり、出産時に母親の血液に触れて感染したりします。母乳中にもHIVが含まれているため、母乳で育てて感染してしまうケースもあります。
そのほか、医療従事者の針刺し事故や注射器の回し打ちなどで感染することがあります。
現在では、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染しても、エイズを発症する前に適切な治療を受ければ、今までと変わらない生活を送ることができます。
適切な治療を受け、血中ウイルス量を検出限界値未満に抑えられている状態を6ヶ月以上維持できていれば、コンドームを使用せずに性行為を行っても相手に感染させることはありません(Undetectable=Untransmittable:U=U)し、妊娠して出産することも可能です。
HIVに感染すると数週間以内にインフルエンザにかかったような高熱や筋肉痛などの症状が出ますが、HIVに特徴的な症状ではないため見逃されることが多いです。
その後は、特に症状が出ることもなく数年から十数年経過しますが治ったわけではありません。
自覚症状がなくてもHIVに感染している可能性がありますので、早期に治療を開始するためにも定期的な検査が必要です。
HIVは唾液などからは感染しません。唾液や汗、尿などにも含まれていますが、感染させるほどのウイルス量ではないため心配いりません。また、トイレなど公共の施設を利用して感染することはありません。
ただし、母乳にはHIVウイルスが含まれてますので、生まれてきた赤ちゃんには粉ミルクでの哺育が推奨されています。
それでは、日本の現状についてお話していきます。
2020年は新型コロナウイルスの影響で検査に行く人が減り、感染報告数も大幅に減少しました。
2021年のHIV感染者とエイズ患者を合わせた新規報告数のうちエイズ患者の割合は29.8%となっていて、この約3割の人たちがエイズを発症して初めてHIV感染も知った『いきなりエイズ』の数となっています。
保健所など自治体が実施するHIV検査数は増加傾向にありましたが、2020年以降は、新型コロナウイルス感染症による外出自粛や、保健所の業務のひっ迫などの影響により、HIV検査数が減少しています。
コロナが流行する前の2019年の検査実施数は142,260件、コロナ後の2021年は58,172件。
2020年以降の保健所や自治体が実施しているHIV検査の件数は半減していることが分かります。
検査数が減ったことで、2020年の新規HIV感染者数も大幅に減少しました。
検査しないまま、HIV感染に気付いていない人が一定数いるのではないかと推測されます。
HIVに感染しても気が付かず、エイズを発症してから、初めてHIV感染に気付くこと。新規エイズ患者報告数=いきなりエイズ数です。
いきなりエイズは、新規HIV感染者・エイズ患者報告数全体の約30%を占めています。
エイズは、発症する前に治療すれば薬で抑える事も可能な病気です。定期的に検査をして早期発見することが大切です。
◎1日1錠の飲み薬
HIVの治療では、HIVの増殖を抑えるお薬を数種類組み合わせて、決められた時間に決められた量(数)を毎日飲み続けなければなりません。近年では、数種類のお薬をひとまとめにしたものが出てきて、1日1錠飲むだけで済むものが登場しました。
◎長時間作用型の注射薬
また、最近では長時間作用型の注射薬(持効性注射剤)が承認され、1ヶ月~2か月に1回の治療で良いようになりました(ボカブリアとリカムビスの併用療法)。
しかし、持効性注射剤の使用には一定の条件があるので、HIVの治療法として初めからこの方法での治療はできません。
【持効性注射剤使用の条件】
・今までに治療失敗の経験がない方
・切り替え前6ヶ月以上HIVが抑制されている状態であること
・HIVが関連する薬剤に対する耐性を持っていないこと
・注射剤使用前に経口剤で1ヶ月間様子をみること
とは言え、1日1錠を毎日忘れずに飲めていれば、HIVの増殖を抑えることが出来ますので、大きな進歩といえます。
U=UとはUndetectable=Untransmittableの略のこと。
HIV治療薬を毎日飲み続けていると、血中ウイルス量が核酸増幅検査で検出できないレベルにまで抑えることができます。
そして、最近の研究ではウイルス量が検出限界値未満を6ヶ月以上維持(Undetectable)している人であれば、性行為をしても相手に感染させることがない(Untransmittable)という事実が明らかになっています。
感染させることがない、というのは異性間・同性間であっても、男性・女性であっても変わりません。
そのため、コンドームを使用せずに性行為をして妊娠することも可能です。
また、ウイルス量が検出限界未満に抑えられていなくても、男性がHIV陽性であれば体外受精で、女性がHIV陽性であれば人工授精や体外受精により妊娠することが可能です。
HIV陽性者との性行為や医療従事者の針刺し事故等において緊急予防策として72時間以内にHIV治療薬の服用を開始する暴露後予防(Post Exposure Prophylaxis:PEP)という方法があります。
2種類のお薬を毎日同じタイミングで28~30日間服用し続けます。
服用終了後や服用が終了してから2か月後や5か月後に検査を受け、感染していないことを確認するようにしてください。
服用開始後、お腹の張り、吐き気、嘔吐、下痢、皮疹などの症状が出ることがあります。程度は軽く数週間以内に症状が消えることが多いです。
使用する薬によって副作用は違うので、確認しましょう。
PEP治療費はお薬代や検査代など併せて30万円前後かかります。お薬をジェネリック医薬品に変更することで9万円前後に抑えることもできます。
次の方たちはPEP治療の適応外になりますので注意が必要です
◎PEPはHIV感染を予防する目的で行われますので、すでに感染してしまっている人にはPEPを行うことができません。
◎PEPで使用するお薬は、服用を中止するとB型肝炎が増悪する場合があり、B型肝炎ウイルスに感染している人にはPEPを行うことはできません。
◎腎臓が悪い方はPEPを行うことができません。
HIV感染リスクが高い人においては暴露前予防(Pre-Exposure Prophylaxis :PrEP)としてHIV治療薬を服用するという方法もあります。
きちんと服用していれば性行為でのHIV感染を99%防げるといわれています。
※現時点(2022.11.22時点)において日本国内でHIVのPrEP薬として承認されているものはありません。
「ツルバダ」または「デシコビ」
【デイリーPrEP(全ての人に効果が認められている方法)】
・毎日服用(同じ時間に1錠)
・有効成分が到達するまでに1週間程度かかるので、性行為がある1週間前から服用を開始する。
・服用をやめる時は最後の性行為から1週間後まで服用する。
【オンデマンドPrEP(ゲイ・バイセクシャルの男性に限る)】
・性行為の前後に服用
・性行為24時間(遅くとも2時間)前に2錠服用し、性行為後に前回の服用から24時間空けて1錠服用、翌日にもう1錠服用する。
・直腸に有効成分が届くまでに2時間かかると言われている
【ツルバダ】
・服用開始後、お腹の張り、吐き気、下痢、皮疹などの症状が出ることがあります。程度は軽く数週間以内に症状が消えることが多いです。
・長期的には腎機能障害が起こる。
【デシコビ】
・ツルバダに比べ副作用が少ない。嘔吐や下痢の症状がでる。
1ヶ月約 10,000円前後から
梅毒や淋病、クラミジアといった他の性感染症は防げません。
PrEPの服用と合わせて定期的にSTD検査を受けるようにしましょう。
今までのHIV感染予防といえば「コンドーム」だけでしたが、最近の進歩により、PrEPという画期的な第2の予防の方法が登場したことで、
自分の考え方やライフスタイルに合わせて予防法を選択できる時代がきました。
U=Uという、治療を受けHIVがコントロールできていれば相手に感染させないというメッセージや、PrEPというHIV感染の予防手段、持効性注射薬の登場などHIVを取り巻く環境は日々変化しています。
今やHIV=死ではありません。感染していても病気の進行を遅らせる良い治療薬があります。
そのためには早期発見・早期治療が大切です。
今まで一度もHIV検査を受けたことがない人は、一度検査を受けてみてはいかがでしょうか。