GME医学検査研究所

トランスジェンダーの方々の
性別適合手術(性転換手術)後の性感染症(STI)検査は?

性別適合手術(性転換手術)をしたらどんな性病検査が必要?

性別適合手術を行ったトランスジェンダーの方が、性病の検査を行いたい場合に疑問になるのが『どこにどの検査が必要なのか?』です。実際にお問い合わせをいただいた事もあり、そのようなお悩みを持つ方は少なくないと思います。そこで今回のコラムでは性別適合手術を行った方に、どのような性病検査が適しているかを解説します。

トランスジェンダーとは

トランスジェンダーとは、心の性別と身体の性別が一致していない人のことです。心の性別である「性自認」と身体の性別である「身体的性」に違和感を感じているトランスジェンダーの人たちの中には、身体的性を性自認と一致させたいと望んでいる方々がいます。
「日本性同一性障害・性別違和と共に生きる人々の会」の調査によると2022年末までに戸籍の性別変更を行った人数は11,919人となっています。

[注1]参考)「日本性同一性障害・性別違和と共に生きる人々の会」性同一性障害特例法による性別の取扱いの変更数調査(2022年版)https://gid.jp/research/research0001/research2023101001/

戸籍の性別を変更する際の要件とは

以下の内容が要件として定められています。

1.2人以上の医師により性同一性障害であることが診断されていること
2.18歳以上であること
3.現在結婚していないこと
4.現在未成年の子供がいないこと
5.生殖腺がないこと。または生殖腺の機能を永続的に欠く状態であること
6.変更したい性別の身体の性器に近似する外観を備えていること

※性同一性障害とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であると持続的な確信を持ち、かつ自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者と定義されています。
※令和5年10月25日付け最高裁判所大法廷決定において、5の要件は憲法13条に違反し無効であるとの判断が示されています。
※2024.4.16時点での情報で、今後の法改正などによって条件が変更される可能性があります。

性別適合手術とはどのような手術?

性同一性障害の治療には、精神科診療にてどちらの性別で暮らすのがよいかの検討を行い、変更を望むのであれば身体的治療としてホルモン療法を実施します。1年以上本人が希望する性別で生活が可能であり、「からだを変えたい」という気持ちが一貫していれば性別適合手術を行います。
手術内容については下記となります。[注2]

◎女性から男性へ変更する手術(FtM:Female to Male)

手術 内容
ホルモン療法 男性ホルモンにより、月経は止まり、ひげ・体毛が生え、声が低くなり、筋肉質になります。
乳房切除術 乳房の大きさや下垂の程度によって術式がかわります。乳頭縮小も行います。
子宮卵巣摘出 女性機能を失います。乳房切除と同時に行われることがあります。
腟閉鎖術 腟粘膜を切除し膣を閉鎖します。
尿道延長術 陰茎形成を前提として尿道を長くします。
陰茎形成術 (Phalloplasty) 施設により異なりますが、腕やふとももなどから皮弁を採取し、筒状にして陰茎を形成します。
尿道も一緒に作られるので、立ったまま放尿することが可能ですが、勃起機能までは難しいです。再建方法によってはある程度の知覚が付くことがあります。
ミニペニス形成術(陰核陰茎形成術) ( Metoidioplasty:メトイド形成術) 男性ホルモンの作用で肥大したクリトリスを伸ばしてミニペニスを形成する手術。尿道延長術と併せて行うとミニペニスから排尿が可能となる。

◎男性から女性へ変更する手術(MtF:Male to Female)

手術 内容
ホルモン療法 女性ホルモンにより、体毛は薄くなり乳房も張ってくるため、体つきが女性らしくなりますが、骨格は変わりません。精神的に不安定になる場合があります。
陰茎・睾丸摘精巣切除術 男性機能を失います。外陰部の形態が女性に近づくとされます。
膣形成術(陰茎・精巣切除術後) ・皮弁法:陰茎・精巣切除、周囲の余剰皮膚を利用します。
・S状結腸法:膣を結腸で再建します。
豊胸術 シリコンバッグを挿入して、女性乳房を作ります。
[注2]引用・改変)日本形成外科学会(性同一性障害)https://jsprs.or.jp/general/disease/sonota/seidoitsusei/

性別適合手術を受けられた方の性病検査

部分的にも全部においても上記のような手術をされた後の方々の性感染症検査はどのような検査を受けるのが適切なのでしょうか?
性別適合手術を受けられた方は、上記の表の性感染症検査が必要になると考えられます。ただし、性行動パターンや手術の内容によっては検査が不必要な場合もあります。かかりつけの病院で担当医に相談してみましょう。

また、表の元となった、アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention : CDC)の、STI治療ガイドライン2021『トランスジェンダーおよび性別多様性の方々』という項目では、以下のように記載していますのでご紹介いたします。

・性別に基づくスクリーニングの推奨は、解剖学的構造(身体の性別)に基づき適応されるべきである。

・HIVスクリーニングは、すべてのトランスジェンダーに説明され提供されるべきです。

・膣形成術を受けたトランスジェンダー女性は、すべての露出部位(口腔、肛門、膣)に対して定期的な性感染症スクリーニングを受ける必要があります。

・形成した腟の性感染症に対する最適なスクリーニング方法(尿または膣スワブ)については、データがありません。

・腟を形成する通常の技術では、子宮頸部は形成されません。したがって、子宮頸がんスクリーニング検査を必要とする根拠はありません。

・トランスジェンダー男性が尿道長延長術を伴うミニペニス形成術を受け、膣切除術を受けていない場合、性器性感染症の評価には、尿検体が子宮頸部感染の検出には不十分であるため、頸部スワブを含むべきです。

・子宮頸部があるトランスジェンダー男性およびノンバイナリーの人の子宮頸がんスクリーニングは、現行のスクリーニングガイドラインに従うべきです。

※トランスジェンダーの方に対する性感染症検査に関しては、どのような手術をどこまで行ったかによって検査すべき部位や方法が異なっており、検証できていない部分もあるため暫定的な記載としております。

参考文献)CDC Sexually Transmitted Infections Treatment Guidelines, 2021https://www.cdc.gov/std/treatment-guidelines/trans.htm
https://www.cdc.gov/std/treatment-guidelines/default.htm
International Journal of STD&AIDS2020, Vol. 31 2018 UK national guideline for the management of infection with Neisseria gonorrhoeaehttps://www.bashh.org/_userfiles/pages/files/resources/gc2018.pdf

自宅でも性病検査が可能です

「性病かもしれない」となると、病院や保健所へ行くために時間を作り、待合室では知り合いがいないかとヒヤヒヤして過ごし、どんな検査をするのかもわからない恐怖と戦わなくてはいけません。
ですが、性病検査を郵送で行うことで、病院に行かず、誰にも会わずに性病の検査をすることが可能です。
郵送検査は、自分で採取した検体を検査機関に送付、スマホで結果を確認する、人に会わずに検査ができるサービスです。

性病は放置しても自然に完治することはありません。症状が無くても気がつかないうちに進行してしまい、気がついた時には重大な病気を発症することもあります。
自分のためだけではなくパートナーのためにも、性病の事を知り、自分に必要な検査を知り、定期的に検査をすることが大切です。

性別適合手術を受けられた方の性病検査について
性別適合手術を行った方の『性病検査』は検証できていない部分も多いです
ですがまったく性病にならないとはいえません
自身のカラダに必要な検査を知って定期的に検査を受けることが大切です