- ①HIVはウイルスのこと
- ②エイズはHIVに感染して合併症を発症した状態のこと
- ③HIVに感染後すぐにエイズを発症するわけではない
- ④正しく治療すればウイルスの増殖を抑えられる
毎年12月1日の世界エイズデーには、世界各地でエイズについての啓蒙が実施されています。エイズと並んで紹介されるのがHIVです。HIVとエイズにはどのような違いがあるのでしょうか。
この記事ではHIVとエイズの違いや検査方法、治療方法について解説します。
HIVとエイズの違い
HIVとエイズ(AIDS)は同じではありません。それぞれを簡単に説明すると、以下のようになります。
◎HIV:ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)の略称で、ウイルスそのものを指す
◎エイズ:後天性免疫不全症候群(Acquired Immunodeficiency Syndrome)の略称で、HIVに感染して免疫力が低下した人が合併症を発症した状態を指す
HIV感染後、エイズと診断されるのは、次の23の合併症のうち一つ以上を明らかに発症している段階です[注1]。感染症は真菌症をはじめとする以下の6つに大別され、それぞれに症状があります。
指標疾患
原因 | 病名 |
真菌症 |
1.カンジダ症(食道、気管、気管支、肺) 2.クリプトコッカス症(肺以外) 3.コクシジオイデス症 (1)全身に播種したもの (2)肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの 4.ヒストプラズマ症 (1)全身に播種したもの (2)肺、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの 5.ニューモシスチス肺炎 |
原虫症 |
6.トキソプラズマ脳症(生後1カ月以後) 7.クリプトスポリジウム症(1カ月以上続く下痢を伴ったもの) 8.イソスポラ症(1カ月以上続く下痢を伴ったもの) |
細菌感染症 |
9.化膿性細菌感染症(13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌などの化膿性細菌により以下のいずれかが2年以内に、2つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの) (1)敗血症 (2)肺炎 (3)髄膜炎 (4)骨関節炎 (5)中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍 10.サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く) 11.活動性結核(肺結核または肺外結核) 12.非結核性抗酸菌症 (1)全身に播種したもの (2)肺、皮膚、頚部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの |
ウイルス感染症 |
13.サイトメガロウイルス感染症(生後1カ月以後で、肝、脾、リンパ節以外) 14.単純ヘルペスウイルス感染症 (1)1カ月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの (2)生後1カ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの 15.進行性多巣性白質脳症 |
腫瘍 |
16.カポジ肉腫 17.原発性脳リンパ腫 18.非ホジキンリンパ腫 19.浸潤性子宮頚癌 |
その他 |
20.反復性肺炎 21.リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満) 22.HIV脳症(認知症または亜急性脳炎) 23.HIV消耗性症候群(全身衰弱またはスリム病) |
なお、11.活動性結核の中の肺結核と、19.浸潤性子宮頚癌は、HIVによって免疫不全の症状が出ている人のみに当てはまります。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-07.html
HIV感染からエイズ発症までの症状
HIVに感染したからといって、すぐにエイズを発症するわけではありません。感染からエイズ発症までは、次のような3つの段階をへるのが一般的です。
感染初期(急性期)> 無症状期(無症候性キャリア期)> エイズ発症期
下記にて、それぞれの段階に表れる症状を解説します。
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【感染~3週間ほど】
感染初期(急性期)にウイルスが増殖するHIVに感染してから2~3週間後に体内のウイルス量がピークに達し、初期症状が現れることがあります。
感染初期に現れる症状は、以下のとおりです。・発熱
・のどの痛み
・だるさ
・下痢
・筋肉痛これらの症状は長く続かないのが一般的です。通常であれば数日から10週間で症状は収まるとされています。
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【数年~10年ほど】
無症状期(無症候性キャリア期)でも感染力はある発熱やのどの痛みなど、風邪やインフルエンザを思わせる症状が現れる感染初期に対して、無症状期(無症候性キャリア期)には自覚症状が現れません。
感染初期に増加したウイルスは6~8カ月ほどで一定数まで減少します。その後、数年から10年ほどの期間に迎えるのが無症状期です。無症状期の長さは人によって異なり、15年経過しても症状の出ないケースもあれば、2年で症状が出るケースもあります。
なお、自覚症状が出ていなくともウイルスの量は増加しています。
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エイズ発症期は免疫力が低下
無症状期の段階で治療をしないでいると、ウイルスは増加を続けます。ウイルスの増加に伴い、CD4陽性リンパ球数が減少すると、免疫力が低下し、エイズ発症期に入ります。
CD4陽性リンパ球数は200/μLを下回ると、日和見感染症や腫瘍などを発症しやすいとされています。[注2]
免疫力の低下によって発症する日和見感染症(健康な人は発症しない弱い細菌や真菌、ウイルスなどにより症状が出ること)の一つが、ニューモシスチス肺炎です。ニューモシスチス肺炎は原虫であるニューモシスチス・イロベチイが原因の肺炎で、エイズと診断された人に多く見られます。最悪の場合は呼吸不全状態になる危険性があり、早期の発見と治療が大切です。
またCD4陽性リンパ球数の数がさらに減少し、血中量が50/μLを下回るとサイトメガロウイルス感染症や悪性腫瘍などの症状が現れることがあります。[注2]
このようにHIVに感染すると、CD4陽性リンパ球数が徐々に減少し、それに合わせて症状も悪化していきます。
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/400-aids-intro.html
HIV・エイズの検査方法
HIVに感染しているかどうかは血液検査で判断します。HIV・エイズの検査方法は次の3通りがあります。
・通常検査
・即日(迅速)検査
・郵送検査
それぞれの検査方法について、詳しく見ていきましょう。
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通常検査は2段階実施される
通常検査は一般的に「スクリーニング検査」「確認検査」と2段階実施されます。
陽性か陰性かを最初に判断するのがスクリーニング検査、さらに本当にHIVに感染しているのかを判断するために実施されるのが確認検査です。スクリーニング検査後に確認検査が実施される理由は、感染していないにも関わらず、検査をすると陽性になる『偽陽性』が発生する可能性があるからです。偽陽性は妊娠中や膠原病の人などに現れやすいとされています。
また、HIVの感染初期では検査で陽性と判断できないケースもあるため、感染した可能性がある日から3カ月以上経過した後に再度検査をしてみることが大切です。
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即日検査は陰性の場合のみ、当日中に結果が分かる
即日検査は、陰性の場合のみ、その日のうちに結果を確認できます。陰性ではなかった場合は、通常検査と同じく確認検査が必要です。
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郵送検査は自宅で手軽に検査できる
郵送検査は、自宅で感染の可能性をチェックすることができる検査です。自分で採血して検査機関に送るため、手軽に検査ができるというメリットがあります。郵送検査で感染が疑われた場合は、医療機関などで通常検査を受けましょう。
HIV・エイズの治療方法
一度HIVに感染すると、ウイルスを体内から完全になくすことはできません。
しかし、日和見感染症の治療と、ウイルスの増殖抑制という2つの方法で症状の悪化を防げます。正しく治療してウイルスの増殖を抑えられれば、感染者と非感染者の寿命は大きく変わらないとされています。
下記にて2つの治療方法を解説します。
1.日和見感染症の治療
日和見感染症の症状が見られた場合は、治療薬を服用します。日和見感染症は治療薬でほぼ完治できる症状もあるとされています。
なお、CD4陽性リンパ球数が一定量を下回った場合、日和見感染症の症状が見受けられなくても予防薬の服薬が必要です。
2.ウイルスの増殖抑制
ウイルスの増殖を抑制するためには、抗HIV薬を服用します。昔は副作用が強いこともあり、CD4陽性リンパ球数が一定量を下回った段階でのみに処方されていました。しかし、副作用の少ない治療薬が開発されたことで、感染初期の段階での服用が推奨されるようになりました。
一般的には、複数の薬を組み合わせる多剤併用療法(ART)が採用されています。多剤併用療法を受けた人は、治療をしなかった人よりも大幅にHIVの増加を抑えられます。
ただし多剤併用療法で気を付けるべきなのが、抗HIV薬を飲み続けることです。服用を中途半端でやめてしまうと、薬の効果が弱まったり効かなくなってしまいます。そのため、自らが積極的に治療方針に参加し、自発的に治療を進めていく姿勢を持つことが大切です。
HIVとエイズの違いを正しく知っておこう
HIVはヒト免疫不全ウイルスの頭文字です。一方、エイズはHIVの感染によって免疫力が低下し、特定の合併症を発症した状態のことです。
HIVに感染すると徐々に免疫力が低下していきますが、適切な治療を受けることでHIV特有の症状や、ウイルスの増殖を抑えられます。HIVの感染が疑われる場合は、まずは自宅で検査できる性病検査キットを活用しましょう。性病検査キットで早期に発見できれば、治療にも早く取りかかれるはずです。
早期に発見して適切な時期に治療を開始することでHIVの増殖を抑えることも可能なため
定期的な検査での早期発見が大切です