- ①ASTはタンパク質を分解してアミノ酸を生成しエネルギー生成を助けます
- ②ALTとの違いは存在する臓器と血中半減期
- ③AST高値の原因が肝臓だと肝機能障害にともなう全身症状が出る
- ④ASTが高値の時は生活習慣の改善を心がける
健康診断の結果で「AST」という項目をみたとき、「この数値が高いと何を意味するの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)は、肝臓や筋肉の健康状態を示す重要な指標です。
異常値が見つかると、病気の兆候や生活習慣の見直しが必要な場合があります。本記事では、ASTが異常値になる原因や、健康への影響、さらに数値を正常に保つための食事療法や運動習慣について解説します。


AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とは
◎ASTの役割と機能
ASTとは、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼという体内に存在する酵素の一種です。
ASTは、タンパク質を分解してアミノ酸を生成、アミノ酸代謝を通じてエネルギー生成を助けます。肝臓や心臓、骨格筋、赤血球の中などに存在するため、これらの臓器が損傷した場合には血中に溶け出してAST値が上昇します。そのため、臓器損傷の指標として重要となります。
◎ASTとALTの関係は?
ALTはアラニンアミノトランスフェラーゼの略で、ASTと同じく肝機能検査の血液検査項目です。ASTもALTもトランスアミナーゼと呼ばれる酵素で、人体に必要なアミノ酸を作る働きを持っています。
ASTとALTの違いは大きく二点あげられます。
一点目は存在する臓器の違いです。ASTは肝臓だけではなく、心臓、骨格筋、赤血球の中などに存在しますが、ALTは主に肝臓に存在します。
二点目は血中の半減期の違いです。
血中半減期は、ASTは11〜15時間、ALTでは40〜50時間となります。
これらの差を考慮し、採血結果を判断することで、どの臓器にどのような障害が起こっているか推測することができます。
ASTの正常値と異常値について
◎ASTの正常値と異常値
ASTの基準値:13〜30(単位:U/L)
基準値を上回る場合はなんらかの疾患の可能性を考えますが、下回る際は臨床的に問題視することはありません。
AST値が31-50(単位:U/L)の場合、保健師による保健指導対象となっています。
AST値が51(単位:U/L)を超えた場合、医療機関を受診することを勧告します。
なお、高齢者や10歳以下の小児においては、AST値は平均的に高めになります。高齢者の場合は若年者と栄養状態や臓器機能の状態が異なるためと考えられています。
小児の場合は成長過程での骨格筋由来のASTが多いためと考えられています。思春期頃に成人と同等の数値になります。
◎ASTが高い場合に考えられる原因
ASTが高値を示すとき、まず最初に、肝細胞がなんらかの損傷を負っていると推測します。しかし、ASTは肝臓以外の細胞にも存在します。
ALTに比べてASTが圧倒的高値の場合は、肝臓以外の筋肉や組織に原因があると考えます。
ALTよりもASTが高値を示す場合、以下のような病態が考えられます。
肝臓 | 急性肝炎(急性期) 肝硬変 肝細胞がん アルコール性肝障害 脂肪肝 黄疸 |
肝臓以外 | 甲状腺機能障害 多発性筋炎 心不全 門脈血栓症 進行性筋ジストロフィー 溶血性貧血 心筋梗塞 ショック状態 |
ASTは激しい運動時に骨格筋からの逸脱や、採血時の溶血により、高値となることがあります。アルコール性の肝障害の場合、アルコールがALTの合成を阻害するため、ASTのほうが高値となる場合が多いです。
ASTとALTの半減期の差から、肝炎の急性期か急性期ではないのかを判断することができます。肝臓内にはASTの方が多く含まれていますので、肝炎の急性期ではALTよりもASTが高値となり、急性期を過ぎるとALTの方が高くなります。
ASTが異常値だとどんな影響がある?

AST高値の原因が肝臓にある場合、肝機能障害にともなう全身症状が現れます。
肝臓の機能は大きく3つに分けられます。
「有害物質の解毒・分解」「たんぱくの生成・栄養の貯蔵」「胆汁の合成・分泌」です。これらの機能が阻害されたとき、以下のような症状が現れます。
・発熱
・倦怠感
・食欲不振
・体重減少
・吐き気
・腹部膨満
・皮膚のかゆみ、色素沈着
・黄疸
・手のふるえ
・出血傾向
・アンモニア臭
AST高値の原因が肝臓以外にある場合、それぞれの原因により様々な症状が現れます。
甲状腺機能低下症の場合 | 無気力、倦怠感、浮腫、便秘、体重増加、皮膚の乾燥など |
甲状腺機能亢進症の場合 | イライラ、体重減少、動悸、眼球突出、多汗、手の震え、甲状腺の腫れ、不安など |
多発性筋炎の場合 | 発熱、倦怠感、疲労感、食欲不振、手指関節の紅色丘疹、肘や膝の関節伸側の紅斑、上眼瞼の紅斑、脱力感、疼痛など |
心不全の場合 | 浮腫、尿量減少による体重増加、倦怠感、息切れ、不眠、胸の圧迫感、食欲低下、手足の冷えなど |
門脈血栓症の場合 | 腹痛、発熱、お腹が張る、脾臓腫大など |
進行性筋ジストロフィーの場合 | ADL低下、嚥下・咀嚼困難、眼瞼下垂、便秘、イレウス、関節の拘縮・変形、心不全、腎不全、不整脈、てんかんなど |
溶血性貧血の場合 | めまい、ふらつき、頭痛、動悸、息苦しさ、倦怠感、顔面蒼白、脾腫、ヘモグロビン尿など |
心筋梗塞の場合 | 激しい胸痛、胸の圧迫感、肩や背中への放散痛、呼吸困難、吐き気、冷や汗など |
ショック状態の場合 | 血圧の急激な低下、顔面蒼白、冷や汗、心拍数増加、チアノーゼ、尿量減少、体温低下、意識障害など |
ASTを下げるための対策

AST値を下げるためには、原因を特定して必要があればその治療を適切に行うことが大事です。
肝臓に起因してASTが高くなっている場合は、適度な運動や食生活の改善など、生活習慣を正すことが良いでしょう。その場合は主治医や栄養士と相談のうえ実施してください。
生活習慣の改善には、運動、食事、休息、ストレスマネージメントなどが関与しますが、ASTを下げるためは、下記などをとくに意識すると良いでしょう。
(1)アルコール摂取を控える
(2)禁煙する
(3)糖質・脂質の摂取を控え、食物繊維を摂取する
(4)肥満解消(ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を1日30~60分、週3日実施)
ASTを正常に保つために
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、なにか病気があっても自覚症状がなく、気づいたときには病気が進行していることがあります。そのために前述した生活習慣改善対策を実行しつつ、普段から自分のAST値を知ることは、病気の早期発見に役立ちます。
AST測定値を知るためには以下のような方法があります。
1.病院・クリニック
病気が疑われる症状がある場合は病院・クリニックを受診しましょう。症状によって受診科は変わります。まずは内科が妥当でしょう。
2.健康診断
現在とくに自覚症状がない場合は、年に一度か二度ある定期健康診断を受けましょう。会社勤めの方は会社の健康診断を、そうではない方は自治体の健康診断になります。ASTは一般検診・特定健診の必須検査項目となっています。
3.郵送検査
自宅にいながら検査キットを購入して調べることができます。自分の都合の良いタイミングで実施でき、誰かと対面することなく検査完了できます。
自覚症状のない人の場合は、1を除く方法での定期検査が選択できます。
定期的にASTを測定することは、病気予防の意識を高めるだけでなく、病気の早期発見に役立ち、速やかに治療を開始することで症状の悪化や合併症を防ぐことが可能となります。
異常値が見つかった際は速やかに医療機関を受診しましょう。
なお、肝炎検査を一度も受けたことがない人は、肝炎ウイルスの検査(B型肝炎・C型肝炎)を受けておくことも有用でしょう。


数値が高値だと将来肝機能障害や心不全などを引き起こす心配があります
日頃から生活習慣の改善を意識して定期的に検査をするよう心がけましょう